
好記録が出過ぎてしまうからオリンピックでは使っちゃダメ!と、世界陸連からイチャモンをつけられたマラソンシューズの使用が条件付きで認められたそうです。当然ですね。マラソンシューズはより良い記録を出せるようにと、企業が苦労してつくり上げた結晶です。それを否定されたらたまったもんじゃありません。ということで、今回取り上げるのは"靴つながり"で、「こんなのありか?」という驚きのキャッチフレーズ。1月に日本に初上陸したばかりのスニーカー「all birds(オールバーズ)」の販促コピーです。
一般的に広告コピーでは「世界一履き心地の良い」という表現は使用できません。世界一や日本一などの誇大表現を使って、消費者に"過度な期待"を持たせることが禁じられているからです。「でも事実なんだからどうしても使いたい!」という場合は、注釈としてその根拠を明記することが義務づけられています。
しかしながら「シューズの履き心地の良さ」などは人によってそれぞれですから根拠を示す尺度がありません。したがって、本来ならばこうした表現を使用した販促はできないはずなのです。それにも係わらず、Facebookに『世界一履き心地の良いシューズ』というタイトルの広告が飛び込んできたのです。
根拠はないけれど、お墨付きがある
どういうこと?と、半ば疑わしく思いながらも、ついついURLにアクセスしてPR記事を読んでしまいました。そしてまんまと購入までしてしまいました。
その記事の中で、この"掟破り"な販促コピーの背景が分かりました。all birdsはサッカーのニュージーランド代表選手だったティム・ブラウンとその相棒がサンフランシスコで立ち上げたベンチャー企業。メリノウールを素材としたサスティナブルなスニーカーが、エコ意識の高いシリコンバレーのITリッチに人気だったそうです。
そこに目をつけたTIME誌の記者が『世界一履き心地の良いシューズ』という見出しで記事を紹介したところ、この見出しが独り歩きしてさまざまなところで紹介されることに。いわば、TIME誌のお墨付きをもらったことで本来の広告ルールではあり得ない表現がall birdsの代名詞になったわけです。
広告コピーの期待度を超えられるか
さて、実際の履き心地はというと、確かに軽くて履きやすいけれど、「世界一」というのは、やっぱり"過度な期待"でした。そもそも、軽すぎるシューズは長時間歩く人には不向きですし、サイズの刻みが1センチ単位なので、私のように26.5センチの人はジャストなフィット感が得られません。「世界一の履き心地」を標榜する割には、靴選びで一番大事なサイズ感が大括りというのはどんなものかと。キャッチコピーの期待度が大きいだけに、いろいろ粗が目についてしまいます。
とはいえall birdsは、ウールを編み上げたアッパーやサトウキビが原材料のソール、汚れたら中敷きを外して丸洗いできるなど、サスティナブルにこだわった魅力も満載です。しかし、いったん「世界一の履き心地」に疑問を持つと、その他の魅力まで薄らいでしまう"諸刃の刃"の販促コピーと言えるでしょう。

■記事公開日:2020/02/10
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣