
子どものころ、うなぎの骨がのどに刺さって往生したことがあります。そもそも、サンマの蒲焼きとすら区別ができず、カレーライスの方がよっぽどご馳走だった私にとって、その体験は"うなぎ嫌い"になるのに十分なインパクトがありました。ところが大人になって、十数年ぶりに食べたうなぎの蒲焼きの美味しさに大感動!それ以来、夏場になって『土用の丑の日 うなぎの日』のPOPを目にすると、情景反射で「今年もうなぎを食べなきゃ!」と思うように。もちろん今年の土用の丑の日(7月27日)も、ふっくら美味しいうなぎの蒲焼きを堪能しました。
実はこの『土用の丑の日 うなぎの日』という文言は、日本最古にして、時代を超えて最も効果を上げ続けてきた広告コピーだと言われています。広告文の作者(コピーライター)は、エレキテルの復元で歴史上の偉人として名を連ねる万能の蘭学者・平賀源内です。
庶民の間にうなぎを食べる習慣が広まったのは江戸時代のことです。ところが、食欲が減退する夏場には、当然ながら、脂の多いうなぎは敬遠されます。困ったうなぎ屋の主人は、店の常連客だった源内に「どうにかならないものだろうか」と相談します。
そこで源内が考えたのが次のような宣伝文でした。
うなぎを風物詩に変えたコピー
この文言を店先に貼り出したところ、客足の途絶えていた店はたちまち大繁盛。それを知った江戸中のうなぎ屋が真似をしたことが、『土用の丑の日 うなぎの日』のPOPの由来となります。
夏場に敬遠される"脂の多さ"を逆手にとり、「それを食べれば夏負けしない」と謳ったところに、このコピーの秀逸さがあります。その思惑は見事に当たり、江戸時代からの歳月を超えて、うなぎの蒲焼きは日本の夏に欠かせない風物詩となりました。
さらに着目すべきは、「本日丑の日」というキャッチコピーです。これは、「金曜日はカレーの日」や「土曜日は手巻き寿司の日」など、現在も多くの商品広告で応用されるアプローチの雛型になっています。源内の表現に根拠はありません。ただ、広告など皆無だった時代に、人々を「その気にさせる」言葉のツボをおさえていた彼は、天才的なひらめきを持ったクリエーターだったことは間違いないでしょう。
うなぎと梅干の食べ合わせ
昔から「うなぎと梅干を一緒に食べてはいけない」と言われますが、これは間違い。栄養学的には、むしろ抜群に相性の良い食べ合わせだそうです。うなぎに多く含まれるビタミンB1と、梅干に含まれるクエン酸は、どちらも疲労回復に効果的。つまり、うなぎと一緒に梅干を食べることで、夏バテ予防に大きく役立つそうです。
ではなぜそうした説が広まったのか。昔は、うなぎの脂と梅干の酸味が刺激し合い、消化不良を起こすと考えられていたようです。また、さっぱりとした梅干は食欲増進効果があるため、高価なうなぎを食べすぎる"贅沢抑止"の意味もあったのでは、という興味深い考察もあります。
そこで「丑の日」の翌日、うなぎ弁当と梅干を買ってきて実際に食べ合わせてみましたが......これが全く美味しくありません。うなぎと梅干の相性は×。やはり一緒に食べるものではないようです。

■記事公開日:2019/08/01
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣