
ノドごしでもなく、コクやキレでもなく、プレミアムでもない。この1年は、ガッキーのひと言にすっかりやられてしまいました。今の時代を生きる人たちをホッとさせる"Heart Warming Beer"をコンセプトにした『アサヒ生ビール』(通称マルエフ)の復活を告げるテレビコマーシャル。撮影では、新垣結衣さんがそのキャッチコピーを口にした途端、その場の空気がまるで"魔法"にかかったような感情に包まれたと言います。ガッキーの魅力と商品の世界観を上手く結びつけた秀逸コピーがこれです。
「コクがあるのに、キレがある。」という懐かしいキャッチコピーで、1986年に発売されたマルエフ。業績が悪化していたアサヒビールの復活を願って発売された商品でしたが、翌年に"キレ"を強調した『スーパードライ』が大ヒット。製造ラインをスーパードライに一本化するため、1993年にやむなく市販ビール(缶・ビン)の製造を終了しました。
それ以降は、飲食店の樽詰め生ビールとして販売されてきましたが、昨今、再びビールの需要拡大が見込まれ、28年ぶりにマルエフの再発売が決定。2021年9月からCM第1弾が放送されるやいなや、発売と同時に完売が相次ぎ、3日後には一時休売して、生産体制を整えるという大きな広告効果を示しました。
マルエフが初めて世に出た1980年代は、空前絶後の好景気。私たちは過去に経験したことがない市場の活性化や生活環境を手に入れました。良いモノを作れば売れた70年代までと違い、80年代は、品質の良さだけでなく、売り方そのものが問われました。その1つが広告です。
そして、この時期に一世を風靡したキャッチコピーの数々が今のクリエーターのお手本になっています。中でも、「おいしい生活。」(西武百貨店)の糸井重里さん、「おしりだって、洗ってほしい。」(TOTO)の仲畑貴志さんは、各々まったく異なる表現アプローチで、確固たるコピー路線を築いた広告業界の巨人です。
『日本の皆さん、おつかれ生です。』は、電通のクリエイティブディレクター郡司音さんのコピーですが、そのコピー作法は、「人と人の間の言葉を拾う名人」と言われる仲畑貴志さんの流れを汲んだクリエーターだと思います。
郡司さんはアサヒビールのオリエンテーションを受けて「慌ただしく、閉塞感のある世の中だからこそ、広告は肩の力が抜けたものにしたい」と考えたと言います。その着想が"Heart Warming Beer"というコンセプトに繋がり、このキャッチコピーが生れました。
そんな思いを多くの消費者がしっかりと受け止めて、マルエフは今なお売れ続けています。また、今年の2月には『アサヒ生ビール黒生』も新発売。CMではマルエフと黒ビールのハーフ&ハーフをさりげなくPRするなど、拡販に向けた第二の矢も抜かりはありません。そして遠くない将来、『スーパードライ』とマルエフは、アサヒビールの二本柱になることは間違いなさそうです。
テレビCMはこちらから
https://www.asahibeer.co.jp/asahinamabeer/
仕事帰りに、仕事仲間と、美味しい生ビールが飲みたくなります。

■記事公開日:2022/10/06
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼撮影=吉村高廣