働く人の健康ライフ3 働く人の健康ライフ3

働く人の健康ライフ3

Vol.1増えている!テレワークでメンタル不調


新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、多くの企業が時差出勤や在宅勤務を導入し始めています。こうした中でひときわ注目されているのが「テレワーク」です。すでに実践している方に話を聞くと「まさか自分がテレワーカーになろうとは思っていなかった。突然のことでなかなか馴染めない」というのが大方で、ITリテラシーの格差による業務遅滞や、仕事環境の変化に伴う精神的なストレスなど、さまざまな困難に遭遇しているのが実情のようです。
こうした現状に対して「テレワークを成功させるには当事者の意識改革だけではなく、家族の協力や会社のサポートが必要です」と話すのは、産業カウンセラーの大野萌子先生。国やマスコミのかけ声ばかりが先行して、いまひとつリアリティが持てなかった新しいワークスタイルとの上手な付き合い方と、管理者や会社が留意し、成すべきことについて、ストレスマネジメントの視点からアドバイスをいただきました。

家庭環境と家族関係の変化に注意!

リモート会議を必要とする職場ですと、パソコン操作が苦手な中高年の方は、専用アプリケーションの設定やその使い方といった段階から困窮する方が少なくありません。ただ、こうしたハード面での躓きは導入初期だけのことで慣れと共に解消されてゆきます。むしろ大きなストレスになるのは、自宅を職場にすることで起こる"家庭環境と家族関係の変化"です。
たとえば、リモート会議をする場合はカメラの向き次第で生活圏の一部が丸見えになってしまいます。ノートパソコンなら簡単に移動できますが、家族共有のデスクトップパソコンがリビングに鎮座している場合はそう簡単にいきません。どこに置いても背景の映り込みが気になって、パソコンの置き場所がなかなか決まらない。あれこれ悩んだ挙句、仕方なくリビングの模様替えからやり直したご家庭もあるほどです。

さらには、家族の存在が仕事の妨げになったり、逆に、ご主人の仕事ぶりが家族にストレスを与えてしまうケースもあります。たとえばリモート会議の最中に、子供が騒いだりペットが鳴いていれば、つい強い口調で注意してしまう場合もあるでしょう。しかし家族にとってはそれがリアルな日常であって、むしろご主人の方が異分子なのです。突然家で仕事をし始めて「急に威張りだした」お父さん。これでは反感を買っても仕方ありません。それも1日や2日で済めば我慢できるでしょうが「仕事なんだから当然」といった態度で1か月間も続けられたらたまったものではありません。

また、共働きのご夫婦が同時にテレワークになった場合は、家事をある程度分担して、お互いをサポートし合うことが大事です。それまでは、各々の職場でプライベートな時間を持てていたのに、テレワークによって自宅が共有のオフィスになり、四六時中顔を突き合わせるようになった。こうしたことが原因で夫婦不和になり、最近では「コロナ離婚」などというワードを頻繁に目にするようになりました。

家族がお互いにストレスを与えてしまう

テレワークの落とし穴はここだ!

日ごろカウンセリングをおこなう中で私が実感しているのは「雑談が少ない職場ほどメンタルの不調者が多い」ということです。仕事の性質もあるでしょうが、タイピングの音だけが響く静まり返ったオフィスや、目と鼻の先にいる同僚にもchatで連絡事項を伝えるような職場は、明らかにメンタル不調の社員が増える傾向にあります。つまり、ちょっとした日常会話の有無が、実は心のセルフコントロールに大事な役割を担っているのです。

それは職場に限ったことではありません。昨今は一人世帯も多く「休日は誰とも話をしないで気ままに過ごす」という方が非常に多くいらっしゃいます。ただそれも、週末を気ままに過ごす程度なら結構ですが、不要不急の外出を控え、それこそ雑談をすることもなく、ただただ黙々と仕事をして過ごすような期間が長く続けば、ようやく自粛要請が解除されても「出社できないメンタル不調者」が現れても不思議はありません。実はここがテレワーク最大の落とし穴なのです。

ストレスは「悲しいことや辛いことの積み重ねが原因」というイメージがあると思いますが、一番大きな因子は「変化」です。その変化を、今多くのビジネスマンは最も身近な"家庭"で強いられているのです。

雑談・日常会話は心のセルフコントロール

在宅ルーティンでマインドセット

メンタル不調の落とし穴を回避する1つの手段は「在宅ルーティン」を決めることです。新しい生活リズムに慣れるまでは、アタマもカラダも軽度の"時差ボケ"状態にあるため、なかなか「仕事モード」に切り替えることができません。こうした状態に一度慣れてしまうと脱出するのに時間がかかったり、最悪の場合は抜け出せなくなってしまいます。これを回避するには、1日のルーティンをつくりそれを実践する努力が必要です。

とくに、起床の時間や昼食を食べる時間、始業と終業の時間など、「時間の区切り」を設定して、出勤時の日常と大きな変化が生まれぬようなタイムマネジメントが基本です。その上で、起床したらいつまでもパジャマ姿でいないで着替える、女性であれば、化粧はしないまでも髪の毛くらいは梳かして仕事に臨むなど、最低限のルールを決めます。それらにとらわれ過ぎる必要はありませんが、自分に甘くなりがちな環境(自宅)にあって、マインドセットできるようなルーティンを幾つか用意しておくと良いでしょう。

また、会社に出勤するのはけっこう体力を使うものですが、家で仕事をしていると体を動かすことがほとんどありません。したがって、終業後に「頭は疲れているけれど、体は全く疲れていない」という状況に陥る方が非常に多くいらっしゃいます。家に引きこもって動かないことによるストレスも大きなものがあるのです。どこかのタイミングで息抜きも兼ねて20、30分ほどウォーキングをするなど、在宅ワークが長くなればなるほど、ココロとカラダの健康を維持するための積極的なアプローチが大切になります。

「時間の区切り」で日常と変わらないタイムマネジメント

管理者がフォローすべきこととは

テレワークを実施している会社では、日課報告をメールでやり取りされるケースも多いようです。ただ、メールでは事務的なやり取りはできても、リアルタイムに相手の気持ちを慮ることは困難です。実はここが思いのほか大事なポイントになります。先述した「雑談」がまさしくそれで、仕事に関係した話題だけではなく、雑談をすることで人と人とは心の距離が縮まります。「調子はどう?」といった軽いやり取りだけでも、会話を持てることでメンタルヘルスは保たれます。そこで、1日に1回時間を決めて、管理者の方から部下に電話を入れてたわいもない世間話をする。こうした働きかけが部下を孤独にさせずにテレワークを上手く進める管理者の大事な役割になります。
もちろん電話だけでも良いのですが、今回の自粛をきっかけにSkypeやZoomなどのオンラインツールを導入してリモート会議を実践したり、在宅社員の管理ツールとして活用している企業も少なくないようです。そうした部分にいち早く着手できるか否かは会社の柔軟性を示す客観的な指標にもなると思います。

新型コロナウイルス感染症が顕在化して以来、私も対面ではなくオンラインツールを使ってカウンセリングをおこなうようになりました。若い方の中には、リアルな面談よりもリモート面談の方が話しやすいという方もいらっしゃいます。ですから、管理者の方がこうしたツールを使いこなせるようになれば、若手の本音を引き出して、深いところで対話が成立するようになるかも知れません。

またリモート面談の場合は、その場の空気感を読んで言葉を濁したり、逆に理解したりする、いわゆる日本的な「忖度コミュニケーション」が通用しません。加えて、これは周りの環境にもよりますが、パソコン内蔵のマイクですと小さな声が拾われないことがあり、ぼそぼそと話していては意思疎通が上手く図れないことがあります。そこで、対面で話すとき以上の声量で話したり、大袈裟に身振り手振りを交えたりと、人との会話に気を遣うことになるため、自ずと対話力のスキルアップにもつながるように思います。

リモート面談なら若手の本音を引き出せる!?

Point産業カウンセラー・大野萌子さんからの
メッセージ

現在は社会的な状況が後押しして、やれテレワークだ、やれリモートワークだと言われているわけですが、今後ウイルスの感染が収まってくれば、在宅でお仕事をされている方々もオフィスワークに戻ってゆくことになるわけです。だからといって、何も手を打たずにやり過ごそうというのはビジネスのトレンド的にも、また何よりBCP(事業継続計画)の観点からもいかがなものかと思います。企業の管理者の方々は比較的高年齢の方が多く、変化を嫌う傾向があるように思います。しかしながら、今社会が直面している状況を鑑みるなら、そのあたりの意識改革もそろそろ必要じゃないでしょうか。その一方で、いささか言葉だけが先走っている印象も否めません。テレワークのメリット(効率性)と表裏一体のデメリット(精神的負荷)を把握しないまま、現場まかせで「とりあえずやってみろ」というのはあまりにも乱暴です。アクションを起こすこと自体は評価されるべきことですが、勢いだけで導入してしまうのはやはり危険です。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
無題ドキュメント
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■記事公開日:2020/04/24 ■記事取材日: 2020/03/23 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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