領国経営 影の実力者たち 領国経営 影の実力者たち

領国経営 影の実力者たち

歴史を作るたくましさを備えた戦国大名を支えた女たち 前田まつ・竹林院・山内千代

近年、女性の社会進出は大きく進んでおり、さまざまな分野で活躍する姿がみられるようになった。ことさらビジネスにおいては経営者や管理職、専門職として力を発揮する女性が増えている。しかし、女性の活躍は現代に限ったことではない。歴史を遡れば、日本初の女性天皇であった推古天皇は、仏教をめぐる大混乱を見事に収束させたし、持統天皇は、夫・天武天皇の遺志を継いで藤原京を完成させ、さらには大宝律令を制定して中央集権国家としての日本の原形を作り上げている。天皇のように記録に残されているケースは少ないが、日本では古くから女性が活躍しており、そしてそれは、戦国時代も同様だった。そこで今回は、領国経営やその参謀として力を発揮した"女性の実力者たち"を取り上げてみたい。

「利益よりも人」と説いた名参謀・前田まつ

NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では、信長の妻・帰蝶が、夫に積極的に意見する姿が描かれているが、実際にはどうだったのだろうか?
戦国時代の「夫に意見する妻」について調べてみると、数多くの逸話が残されている。中でも前田利家の妻・まつの逸話がおもしろい。学問や武芸に通じていたまつは、金を貯めることに熱心だった利家に「金銀を貯めてばかりいないで、兵を養いなさい」と日頃から意見していた。しかし、利家は聞く耳を持たず、戦に向かう仲間たちにも金を貸し、その利息を得ていた。利家にしてみれば、「一国のリーダーとして利益を重視するのは当然のこと」と考えていたのかもしれないが、周囲からの評判は悪くなるばかりだった。
あるとき、合戦を前にして兵を募集したが、思ったより集まらず利家は焦った。これを見たまつは、蔵から金の入った袋を持ち出してきて、利家の足元にぶちまけてこう言った「平和のときは金銀を貯めるのもいいでしょう。でも、いつも言っているように、この時代はそんな時代ではない。戦にこの金銀を連れていって槍を突かせてご覧なさい」。

コロナ渦によって大転換期を迎えた現在、誰もが厳しいビジネス環境の中で生きている。だからこそ、利益を社員に還元しないような経営者を部下が信頼することはないだろう。また、自分のやり方ばかりを優先し、部下に無理を強いる管理職がいたら、部下のモチベーションは下がり、生産性が落ちてゆくのは確実だ。挙句の果てには、セクション全体の評価が下がり、「管理職としての能力が不足している」と烙印を押されてしまうかもしれない。そればかりか、部下が会社を辞めてしまう可能性だってある。混迷する時期だからこそ、人を大切に育てることが重要で、それが将来の経営の力になることをまつの言葉が教えてくれている。
現代は江戸時代よりも危機管理対策が必要だ 厳しい環境下だからこそ"人"が将来の経営の力になる

現代マーケットでも通じる要素を持つヒット商品を開発・竹林院

現代のヒット商品の中には、「女性が開発した商品」が数多く含まれている。企業側もそれを十分に理解しており、開発チームに女性を増員しているケースも多いようだ。たとえば、パナソニックでは、自宅でエステ並みのケアができるスチーマー「ナノケア」を女性チームが開発。2020年3月時点で、「ナノケア」シリーズは国内累計販売台数1250万台を達成する大ヒット商品となった。商品開発は、女性の目線やアイデアを生かすことができるため、女性に適した分野であるといえるだろう。
さて、戦国時代はどうであったか。調べてみると、苦しい幽閉生活の中で女性ならではの知恵を絞り、苦境を脱する機会をつくった企画ウーマンがいた。それが真田信繁(幸村)の妻・竹林院である。

関ヶ原の戦いの直前、義父・真田昌幸と夫が西軍につき、信州・上田で徳川秀忠軍に勝利するが、肝心の西軍が敗退。戦後、信繁たちは九度山(和歌山県九度山町)に幽閉され、竹林院も同行した。九度山での生活はとても厳しかったらしく、信繁が親族に「お金を送ってほしい」と頼んだ手紙も残されている。こうした中、竹林院は、糊口をしのぐために信州・上田地域の紬技術を応用した「真田紐」を考案。家臣たちに行商させたところ、それが思わぬヒット商品となった。そのおかげで、幽閉生活の苦しさから脱することができたという。

従来の紐は、糸のみで「縦に組む」ため、構造的に伸びやすいのに対し、真田紐は、縦糸と横糸を機械で「織る」構造のため非常に丈夫で実用的だった。これは竹林院の地元・上田の織物技術を熟知していたからできたのだろう。また、真田紐は織り込む糸の色を変えることで好みの柄が出来るというデザイン性も兼ね備えている。これも庶民に受け入れられる重要な要素だった。「実用性の高さに加えて、デザイン性にすぐれた商品」これは、現代のマーケットでもヒットする要因だ。真田紐は、茶道具の桐箱を結ぶ紐や刀の下げ緒、帯締め・帯留用の紐、荷物紐などに使用され、現在でも各地で生産されている。もし、これが幽閉中ではなく、上田で大量生産されていたら、代表的な生産物となっていたに違いない。

危機対応には「スピード」が必要だ 女性ならではの知恵を絞り、ヒット商品を開発

「内助の功」の語源となった知恵者・山内千代

戦国武将の妻には、夫の出世を助けた知恵者が多い。妻の決断がときに家を没落させるか、あるいは繁栄させるかのターニングポイントとなることすらある。中でも有名なのは、のちに土佐国高知藩主にまで出世する山内一豊の妻・千代だ。夫が浪人時代に欲しがった名馬を購入するために十両もの大金を出した。やがて、その馬が見事に信長の目に止まり、一豊は一気に出世街道に乗ることになる。夫のためとはいえ、大金をポンと出す肝っ玉の太さは、良妻の鏡として現代にも語り継がれることとなったわけだが、そもそもこの十両は、千代が嫁入りしたときに持ってきたものだそうで、「内助の功」の語源になった。
一見、無駄に思えるようなことにも思い切って投資できるか否かはビジネスの才覚であり、歴史に名を残す実業家のほとんどはその投資を生き金に変えている。「内助の功」とはいえ、千代には投資のタイミングを見抜く才覚があったのだろう。

また「機転を利かす」ことでも、千代は胆が据わったパートナーだった。関ヶ原の合戦直前、一豊は上杉討伐のために徳川家康に同行していた。大阪に残った千代は、石田三成の監視下に置かれながらも一豊に豊臣側の情報を送った。千代はこのとき、「私の身のことはご心配なさりませぬように。かなわぬときは自害いたします。平素申されておりましたように徳川殿へのご格勤、よくよくお尽くし遊ばしますように」と添えている。
一豊は、受け取った手紙をそのまま家康に差し出し、さらに軍議の席で自らの居城・掛川城を明け渡し、徹底して徳川の味方をするという態度を示した。東軍・西軍のどちらに付くか決めかねていた他の武将もこれに倣い、東軍の勢力は結集することになる。

関ヶ原の合戦で東軍が勝利すると、家康は「一豊の功は随一である」と評したというが、ここには千代の機転と深慮、さらには、大きな決断があったことは間違いない。千代の力なくして大大名・山内一豊はありえなかったと断言できる。

将来を守る計画を立案・実行しなければならない 機転と深慮、大きな決断力が「内助の功」

戦国時代の女性のたくましさは現代も共通

戦国時代には、武勇で名を轟かした女性も多い。成田甲斐は、成田氏長の長女で、兵法・武芸に秀でており、秀吉軍が関東を攻めた小田原征伐の際、父が小田原城に入ったため、居城の忍城を預かり、豊臣軍が城に侵攻した際に城を守りぬいたと伝わる。大友氏の家臣・吉岡鑑興の妻・妙林尼は、鶴崎城に籠城し、自らが指揮を執り、迫る島津軍を幾度となく退けた。そして翌年には、島津軍に奇襲攻撃を仕掛け、多くの首をとったと伝わる。また、大内氏と戦った伊予の大祝鶴姫などの伝承からも、この時代の女性たちは、とてもたくましく生きていた印象だ。

それは現代社会にも通じるものがある。これまで男性ばかりであった職種に多くの女性が進出しているし、中には肉体労働を選ぶ人もいる。また、企業の役員にも続々と起用されているし、女性ならではの目線で商品・サービスを開発して起業する人もいる。そういった働く女性たちの才能を生かし、活躍する場を作り出すことは、今後の企業経営に大きな意味を持つだろう。

最後に、キープレスの「リーダーズ・アイ」にご登場いただいた昭和女子大理事長の坂東眞理子先生のお言葉を紹介しよう。

「もはや日本の社会は、男性の力だけでは支えきれないほどに人手不足が深刻です。また、働き方改革が言われ、多少の企業差はあれ、昔のように深夜まで残業を強いられることも無くなってきています。つまり女性が力を発揮する条件は整いつつあるのです。各企業の管理職の皆さんには、ぜひ女性の力に大いに期待していただき、正しく女性を鍛えていただきたいと思います」。

新しい発想での危機管理も考える時代だ 今後の企業経営は女性の力に多いに期待したい

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■記事公開日:2020/08/31
▼構成=編集部 ▼文=小山眞史 ▼イラスト=吉田たつちか 

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