働き方がどんどん自由になる現代。そして軽くなるビジネスパーソンの装い。なのに、40代・50代のビジカジが重苦しく足踏みしているのはなぜか。それは『カジュアル(気楽さ)」と『ビジネス(堅実さ)』の境界線が曖昧になっているから。その結果、多少の堅苦しさは我慢してでもスーツがくれる「安心感」にしがみついていた方がいいと考える方が多いのではないでしょうか。
でも、ちょっと待ってください。10月まで続くと言われる今年の猛暑、本当にその格好で乗り切るつもりですか?
そこで今回は、ファッション・ライフスタイルディレクターの林トモヒコさんに、大人らしさを保ったまま涼しく装う『夏のビジカジ戦略』を指南していただきました。
林 トモヒコ(T-style代表/ファッション・ライフスタイルディレクター)
40〜60代男性向けの人気YouTubeチャンネル
Chu Chu DANSHIの発信者として知られている。大手アパレル企業での勤務を経て、豊富な実務経験を活かして中高年男性に向けたファッション提案をおこなっている。YouTubeチャンネルでは、ユニクロや無印良品など身近なブランドを中心に、「手ごろで無難だけれど、清潔感のある装い」をわかりやすく解説。「おしゃれにそこまで関心はないけれど、きちんとしていたい」という大人の男性から支持を得ている。
ビジネスカジュアルと聞くと、多くの方は「ネクタイからの解放」を思い浮かべると思います。ですが一般的なビジネススーツは、レギュラーカラーのシャツにネクタイを締めて初めてシルエットが完成するようにつくられたもの。胸まわりや肩のラインも、それを前提に格好よく見せる工夫が施されています。
そこからネクタイだけを外してしまうと、堅苦しさは薄れるものの、洗練とは程遠い「ネクタイを外した気楽なおじさんスタイル」になってしまいます。
問題はネクタイだけではありません。ビジネススーツのパンツは、紐付きの革靴が似合うシルエットで設計されています。そこに、何も考えずにレザースニーカーを合わせると全体のバランスが崩れてしまう。「パッとしないビジネスカジュアル」の正体は、たいていこのあたりにあります。
であるならば、ビジネススーツを流用するより、気軽に着られる"ジャケット&パンツ"をひと組そろえてしまったほうがいい。お勧めは、ユニクロの『感動ジャケット・感動ブレザー&パンツ』。作り込みは正統なスーツに及びませんが、デザイン、機能性、価格のバランスが良く、洗練されたカジュアルダウンを実現できます。
「もう少しカジュアルでいいですよ」と言われて、すんなりとスタイルを切り替えられる人はなかなかいません。実はスーツを着慣れた大人世代ほど、このひと言に戸惑ってしまうものです。
象徴的な話があります。ある企業が新入社員に「入社式はビジネスカジュアルで来てください」と伝えたところ、ほとんどの方がスーツで来たそうです。世代を問わず「その会社が考えるカジュアル」を具体的に示してもらえない限り、人はビジネスカジュアルを思い描けないのです。
その結果。「暑い、暑い」と言いながらもネクタイを締め続けたり、ネクタイだけ外してなんとなくやり過ごしていたり。心当たりのある方も多いのではないでしょうか。装いへの関心をほんの少し持つだけで、日々の過ごし方も仕事のパフォーマンスも変わってくるはずです。
まず押さえてほしい要のポイントは、テーパード(裾に向かって細くなるデザイン)されているきちんとしたスラックス系パンツです。ここが整っていないと、上でどれだけ頑張っても、全体がずるずるとカジュアルに寄っていってしまいます。
パンツと並んで大事なのが靴。私がお勧めしているのはローファーです。革靴の中では一番カジュアルでありながら、スニーカーの一歩手前の存在。それでいてフォーマル感はしっかりキープできる。最近はラバーソールのものも増え、スニーカー並みの歩きやすさを持つローファーも珍しくありません。
パンツと靴さえ決まっていれば、上には何を着てもある程度のフォーマル感をキープできます。肩パッドがほとんど入っていない"楽に羽織れるジャケット"が様になるのも、この土台があってこそです。
シャツで意外と悩ましいのが「白」、そして「薄めのベージュやグレー」です。夏場のシャツ一枚は思いのほか着こなしの難易度が高いもの。ジャケットを羽織っていれば映えるのに、脱いだ途端に急に野暮ったくなってしまうからです。
「洋服選びには自信がない」という方ほど無難に白やベージュ、グレーを選びがちですが、むしろ自信がない方こそサックスブルーや白とブルーのストライプを選んだ方がコーディネートはうまくいきます。
サックスブルーは、夏場に男っぷりを上げてくれる頼れる色で、特に40代、50代の男性には「鉄板」と言っていいほど似合います。筋肉が残っている若い世代ならなおのこと、日本人の肌や骨格とも相性がいい色です。ただ弱点がひとつだけあって、脇汗のシミが目立ちやすいこと。気になる場合は、白とブルーのストライプなど色の切り替えがある柄を選んでください。汗ジミはぐっと目立ちにくくなります。
パンツの色で失敗しやすいのが、薄いグレーです。日本人男性はなぜか薄いグレーを好みがちですが、正直なところ似合う人はかなり限られます。ある程度年齢を重ねた世代なら、ビジネスシーンではダークグレーの方が圧倒的にしっくりくる、というのが率直な実感です。ダークグレー、あるいはネイビーのパンツにローファーを合わせるだけで、ビジネスカジュアルらしいスタイルが完成します。
ビジネスパーソンがオフィスカジュアルやクールビズを考えるとき、まず思い浮かぶアイテムはコットン素材のTシャツやポロシャツとスラックスの組み合わせではないでしょうか。でも、もう少しビジネスに寄せたいなら、ニット素材のアイテムという選択肢もぜひ知っておいてほしいところです。
ニット素材のポロシャツやTシャツは、世代を問わず着られるワンランク上のオフィスカジュアルとして、ここ数年でバリエーションがぐっと増えました。家庭の洗濯機で洗えるものをアパレル各社が続々と開発しているので、これを使わない手はありません。真夏はやや暑く感じるかもしれませんが、シワになりにくく、綺麗さを保ちながら、ほどよい力の抜け具合を両立できる頼もしいアイテムです。
白Tシャツを着るときは、下着が透けて見えるような薄手の素材は避けてください。しっかり厚みがあり、白でも透けない、素肌が見えない素材を選ぶことが大切です。
袖が必要以上に短かったり、体にぴっちりしすぎているのも避けたほうがいい。試着してみて適度にゆとりがあり、体に沿うくらいのラインが好ましいと思います。胸元の開き方も、詰まりすぎず開きすぎない加減を意識してみてください。
そして何より大事なのが、シミや汚れがついていないかのチェックです。パートナーが用意してくれた服にシミがあっても、細部まで見きれていないことは意外と多いもの。「着る前に自分の目で確認する」くらいの慎重さがないと、白Tシャツは着こなせません。そこまで高価なものでもないので、仕事用なら毎年買い替えるくらいの気持ちでいるのがちょうどいいと思います。
ビジネスカジュアルというと「チノパン」のイメージが強いかもしれませんが、カジュアルに寄りすぎたりシワが目立ったりするので、おしゃれに自信がないならチノパンは避け、冒頭でもお伝えしたテーパードされたスラックス系パンツが無難です。
また、「夏は薄い色(ベージュやライトグレー)が爽やかな印象を与える」と思い込んでいる方も多いのですが、コーディネートに自信がないなら、むしろ濃い色でまとめたほうがうまくいきます。ネイビー、黒、ダークグレーといった濃色は、確実にフォーマル感を底上げしてくれますし、体型をきれいに見せる効果もあります。
また、カジュアルダウンにおいて白スニーカーは、失敗しにくいアイテムと考えられがちですが、スニーカーを履くなら私は俄然黒をお薦めします。
白スニーカーは好き嫌いがはっきり分かれるところで、目立ちやすい分、否定的な声も少なくありません。その点、黒は否定されにくく、汎用性も高い。最近では上場企業でもスーツに黒のレザースニーカーを合わせる方が増えています。スニーカーで迷ったら黒が一番無難で間違いのない選択だと思います。
ビジネスカジュアルにトライするならインナーにこだわってほしいと思います。シャツの上からインナーのカタチが透けて見えていたり、首元からネックラインがチラリとのぞいていたり。インナーはあくまで肌着であって、人に見せるものではありません。ここを意識していない方が意外と多いので、あえてお伝えするならば、色は透けにくいベージュかグレーの2色。
近頃はさまざまなメーカーから「機能性インナー」が発売されていて、愛用者も増えてきています。天然素材にこだわらず、吸汗速乾、接触冷感、吸湿・放湿、抗菌防臭・消臭、高伸縮性など、今の時代に合った機能をもった合成素材のインナーは、夏の装いを快適に底上げしてくれます。
■記事公開日:2026/07/28 ■記事取材日: 2026/07/03 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼取材・文=吉村高廣 ▼撮影=只野ヒロキ