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Z世代の価値観に応える 採用と育成のニューパラダイム

SNSネイティブで個性重視、そして働き方にも価値観にも独自のこだわりを持つZ世代。企業にとっては、これまでの常識が通用しにくい「扱い難い世代」と映ることも少なくありません。しかし、Z世代のマインドを理解して、適切な向き合い方で彼らを"戦力"として育てていくことは、これからの組織づくりにおいて不可欠です。そこで今回は、人材採用と育成のプロフェッショナルであり、数多くの企業でZ世代活用を支援してこられた株式会社人材研究所の安藤健さんにインタビュー。Z世代との信頼関係を築くためのヒント、採用成功のポイント、そして定着・活躍を促す育成の実践についてお話を伺いました。
安藤 健 株式会社人材研究所 ディレクター
青山学院大学教育人間科学部心理学科卒業。日本ビジネス心理学会 上級マスター資格。LEGO SERIOUS PLAYトレーニング修了認定LSPファシリテーター。組織・人事に関わる人のためのオンラインコミュニティー『人事心理塾』代表。主に国内大手企業・中小企業での採用・教育研修・評価報酬制度構築など様々な組織人事コンサルティングに従事。また人事関連書籍(人材マネジメント用語図鑑ほか)やコラム連載、メディア登壇実績多数。東京都、千葉県、経産省主催の採用・人材開発セミナー講師などを務める。
人材マネジメント用語図鑑

1. 新世代の価値観とキャリア意識

Z世代には「価値相対主義」と呼ばれる価値観が根付いています。多様な意見や考え方を前提に物事を判断する姿勢を自然に身につけており、キャリア観も「大企業=成功」という一元的な図式にとらわれません。起業やフリーランスなど、あらゆる選択肢の中から自分らしい道を模索する傾向があります。
一方で、「絶対的な正解」が見えにくい社会では、自分の選択に不安を抱きやすく"他者からの承認"を判断基準とする側面もあります。就職先の選定においても、「有名企業で働きたい」という志向と、「スタートアップで活躍したい」といった志向が二極化しているものの、いずれも「周囲からどう見られるか」を気にする心理が共通しています。柔軟な価値観と強い承認欲求は、Z世代を語るうえで欠かせない特徴です。
1. 新世代の価値観とキャリア意識
また、彼らは「キャリアコンシャス」な世代でもあります。将来や成長に敏感であると同時に、焦りを抱きやすい傾向があります。自然災害や経済危機といった不安定な時代に育った経験から、安定や堅実さを重視しますが、その意味合いは従来と異なります。終身雇用の崩壊や公的機関の変化を見てきた彼らにとっての安定とは、「どこでも通用するスキル」や「個人の成長」にほかなりません。この考え方は「新安定志向」とも呼ばれ、キャリアは"与えられるもの"ではなく"自ら築くもの"という意識が強いのです。
さらにこの世代は「ソーシャルネイティブ」です。SNSを通じて常に誰かとつながることが当たり前で、人との接点や情報収集もSNSが中心。それはすでに生活の一部となっています。
しかし、SNSには極端で信憑性の低い情報も多く、「有能な人は〇〇している」「〇〇しないと損」といった刺激的な言説が拡散されやすい傾向があります。経験の浅いZ世代は影響を受けやすく、他人との比較から自己肯定感を下げたり、「今の職場は正しい選択だったのか」と不安を抱いたりすることも少なくありません。情報に常時アクセスできる一方で、その取捨選択に慣れていないことが、情報過多や自己不信を招く要因になっています。SNSの利便性とリスクの間で翻弄される姿は、現代のキャリア形成における新たな課題を象徴しているといえるでしょう。
1. 新世代の価値観とキャリア意識

2. 変化する会社選びの基準と採用戦略

近年、「若手人材が採用できない」という声が多く聞かれます。その背景には、Z世代特有の会社選びの基準があります。
かつては「安定した収入」や「長く勤められること」が会社選びの軸でした。しかし、Z世代はその優先順位を変えつつあります。給与は依然として重要ですが、それ以上に重視しているのは「柔軟な働き方」「自分らしくいられる職場」「仕事の社会的意義」そして「成長実感」などです。
たとえば、テレワークやフレックスタイム、副業の容認など、柔軟な働き方はもはや前提条件に近い項目です。彼らにとって働くことは、人生の一部であると同時に、自分の価値観やライフスタイルを損なわずに収入を得る手段でもあります。そのため、出社必須や残業前提の職場は敬遠されがちです。
また、仕事の社会的意義にも敏感です。SDGsや社会課題への取り組みに共感できるかどうかが志望動機を左右します。加えて、職場の雰囲気や人間関係も重要です。多様な価値観が尊重され、個性や考え方を受け入れてくれる環境かどうかを慎重に見極めようとします。
さらに、彼らが必ず問いかけるのが「この会社で自分は成長できるのか」という点です。Z世代は、どのような環境で、なぜ成長できるのかについて、納得できる具体的説明を会社に求めます。単なるスローガンではなく、キャリアパスや育成方針、日々の業務における成長機会までを明確に示すことが重要です。もちろん、成長機会と柔軟な働き方の両立はどのような企業にとっても簡単な課題ではありません。しかし、このバランスを実態として整え、明確に発信できれば、Z世代の「共感」と「納得」を得ることは可能です。
中小企業でも、理念や社会的役割を明確に打ち出し、柔軟な制度や成長機会を具体的に提示すれば、大手にはない魅力を示せます。Z世代の価値観を理解し、彼らが求める要素に正面から応えること――それこそが、これからの採用成功への鍵となるでしょう。
2. 変化する会社選びの基準と採用戦略

3. 若手の早期離職増加とマネジメント課題

「せっかく採用したのに数カ月で辞めてしまった」「ようやく戦力になってきた頃に退職を申し出られた」。Z世代を採用した企業から、こうした"早期離職"の悩みが多く聞かれます。特に中小企業では、一人の離職がチーム全体に与える影響が大きく、早期退職対策は急務です。
3. 若手の早期離職増加とマネジメント課題
Z世代が早期に会社を離れる背景には、価値観の違いがあります。まず、「我慢していればそのうち慣れる」といった旧来型の考え方が通用しにくくなっています。理不尽なルールや非効率な業務、曖昧な指示に対しても、「違和感があるなら環境を変えるべきだ」という判断を下しやすいのです。
その背景には、SNSや口コミサイトで常に他社の働き方や職場環境を知ることができる情報環境があります。「もっと自分に合う職場があるのでは?」という比較意識が働き、不満や違和感が離職につながりやすくなっています。
また、入社前の期待と現実とのギャップも大きな要因です。採用時の説明が曖昧だったり、実際の業務が想定と違ったりすると、「聞いていた話と違う」と感じ、早々に見切りをつけるケースは珍しくありません。Z世代にとって入社後の数カ月は、会社を見極める"逆・試用期間"ともいえます。
さらに、育成やマネジメントの在り方も離職防止に直結します。かつては「石の上にも三年」といった精神論で若手を長期的に育てる(縛り付ける)ことが一般的でした。しかしZ世代は、そうした抽象的な励ましには納得しません。彼らが求めているのは、「この経験が自分のキャリアにどうつながるのか」「なぜ今これをやる必要があるのか」という、個別かつ具体的な説明です。
つまり、「私のことを理解し、成長を支援してくれている」と実感できる関わりが不可欠なのです。「代わりはいくらでもいる」という姿勢は通用せず、人材はまさに"人財"として守り育てるべき存在です。企業がその意識を持ち、支援型のマネジメントへと転換できるか否かが、早期離職防止の分岐点になります。
3. 若手の早期離職増加とマネジメント課題

4. 世代間コミュニケーションの壁と信頼構築

Z世代の若手社員と向き合う中で、管理職や人事担当者からよく聞かれるのが、「どこまで踏み込んでいいのかわからない」「何を言えば響くのか読めない」といったコミュニケーションの難しさです。とくに中小企業では、年齢の近いロールモデルが少なく、世代間ギャップが際立ちやすくなります。
現場でズレが生じやすいシーンはいくつもあります。注意したつもりがパワハラと受け取られる、背景説明のない指示に「納得できない」と反発される、距離を縮めようとして私生活に踏み込んだ結果「干渉された」と感じられる......従来の感覚では想定しにくい反応が返ってくることも珍しくありません。
この背景には、Z世代が「個を尊重してもらいたい」「理由を明確に説明してほしい」という価値観を強く持っていることがあります。「上司だから」「年上だから」というだけでは信頼は得られないのです。さらに、ハラスメントの線引きは受け手の感覚次第であり、同じ言葉でも人によって受け止め方が異なります。これが対Z世代コミュニケーションの難しさを増す要因です。
4. 世代間コミュニケーションの壁と信頼構築
では、この"曖昧な地雷"を踏まぬためにはどうすればいいのか。答えはマニュアルではなく「信頼関係」にあります。信頼があれば、多少厳しい言葉も「自分を思ってくれている」と受け止められますが、信頼がなければ何気ない一言でも「攻撃された」と感じられてしまう。つまり重要なのは、何を言ったかよりも、誰がどんな関係性の中で言ったかです。
Z世代との関係構築では、まず、相手の考えていることを知り、納得感を高める対話を重ねること。抽象的な指導ではなく行動に基づく具体的なフィードバックをおこなうこと。そして「伝わる言い方」を模索するのではなく、「伝えようとする姿勢」を示すこと。こうした積み重ねが「この人は自分を尊重してくれている」という実感を生み、信頼へとつながります。
世代が違えば、感じ方や受け止め方が異なるのは当然です。だからこそ、信頼を土台にした丁寧な関係づくりが、すれ違いを乗り越える最大の武器となります。頭ごなしの注意や指導などはもってのほかです。
4. 世代間コミュニケーションの壁と信頼構築

5. 1on1ミーティングで育む信頼と成長意欲

Z世代の若手社員を育成する中で、「普通に指導しても手応えを感じられない」と悩む管理職は少なくありません。業務指示や一般的な面談だけでは反応が薄く、成長の兆しが見えにくいことが多いのです。こうした状況で注目されているのが、「1on1ミーティング」という手法です。
これまで上司と部下の1対1の面談は、多くの場合「人事評価の場」に限られていました。しかし近年では、月1回や週1回など高頻度で実施し、日常の業務のフィードバックや悩みの共有、考えの引き出しに重点を置く会社が増えています。これは、Z世代をはじめ若手社員の育成において「定期的な対話が不可欠」と認識されているためです。
5. 1on1ミーティングで育む信頼と成長意欲
Z世代は、多様な選択肢があるデジタル環境で育ち、「自分らしさ」や「納得感」を重視します。一方的で画一的な指導には反発しやすいものの、「自分を理解しようとする」「話をしっかり聞いてくれる」という関係性の中では信頼が生まれ、成長意欲も高まります。
1on1ミーティングは、こうした信頼関係を築くための有効な場です。仕事の成果や課題だけでなく、本人の将来の関心や価値観、不安にも耳を傾けることで、上司は適切な支援の方法を見つけられます。さらに、「今の仕事の意味」「身につくスキル」を共に言語化することで、仕事への意義付けや成長実感を深めることができます。
ただし、1on1を効果的に行うには、環境づくりも重要です。オープンスペースやフリーアドレスを採用するオフィスが増える一方で、落ち着いて本音を話せるクローズドな空間の確保も必要です。会議室や面談室など、安心して対話できる場所を用意することで、1on1ミーティングの質はさらに高まります。
育成の本質は、一方通行の指導ではなく、信頼と対話を通じて共に作り上げるプロセスです。Z世代の力を最大限に活かせる組織を目指し、指導や評価のあり方を今一度見直すことが求められています。
5. 1on1ミーティングで育む信頼と成長意欲

6. 成長実感と納得感を引き出す育成の3要素

Z世代に成長実感と納得感を持たせる育成のポイントは、大きく3つに分けられます。
1.信頼関係を築くための相互理解
Z世代は相手の能力や地位ではなく、「人柄」を重視して話を聞くかどうかを判断します。上司は最初、彼らにとって"得体の知れない大人"にすぎません。そんな相手から根掘り葉掘り聞かれると、圧迫感を与えてしまいます。深い話を引き出すためには、まず上司自身が自己開示することが大切です。自分の価値観や性格、挑戦していることを伝えることで、相手も心を開きやすくなります。
2.仕事の意味づけと経験の振り返りをサポート
「今取り組んでいる仕事には、こうした意味がある」と本人に伝えることが必要です。ただし、ここでの「意味」とは会社の売上や業績に結び付くものではなく、「本人にとっての意味」です。本人が「成長につながる」と感じられれば、目標に向かって主体的に動くようになります。
3.経験の振り返りを伴う質の高い成長支援
多くの経験を積むだけでは成長は促せません。かつては「質より量」で育成することもありましたが、残業規制の中では、限られた経験を振り返り、課題や反省を明確にすることが求められます。新人だけでの振り返りは難しいため、上司や先輩が1on1ミーティングなどの機会を頻繁に設け、共に学びを深めることが有効です。
Z世代に限らず、育成には時間がかかるものです。本人が成長実感や納得感を得るためには、その場限りの指導や評価だけでは不十分で、継続的なフィードバックや小さな成功体験を可視化して振り返る場を設けることが重要です。したがって、組織や上司も「ある程度の時間」と「忍耐強い支援」を前提に育成計画を立てる必要があります。
かつては「言わなくても伝わる」「型にはめて育てる」方法が通用しましたが、今は一人ひとりの価値観や学び方に応じた"伝え方の配慮"が求められます。難易度は上がりましたが、その分、組織が接し方を柔軟に変え、環境を整えることができれば、Z世代は驚くほど高いポテンシャルを発揮してくれます。変化をチャンスと捉え、育成の仕組みをアップデートすることが、今まさに求められていると言えるでしょう。
6. 成長実感と納得感を引き出す育成の3要素
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■記事公開日:2025/08/26 ■記事取材日: 2025/08/04 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼取材・文=吉村高廣 ▼撮影=田尻光久 ▼Adobe stock

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