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Vol.32Z世代の気持ちを読み取るヒント

価値観やものの考え方は、時代の移り変わりとともに変化していくものです。それ自体は自然な現象といえるでしょう。とはいえ、職場で若い世代と向き合うなかで「同じ日本語を話しているのに、まったく意思疎通ができない」と戸惑う中間管理職が増えています。なかでも、多くの人が難しさを感じているのが、"Z世代"との関わり方です。Z世代は、生まれたときからスマートフォンやSNSが日常に溶け込んだ環境で育ち、情報を空気のように扱う世代です。その一方で、対面でのやり取りには慎重で、感情表現や人間関係の距離感に不安を抱く傾向も見られます。これまでの常識が通じない場面も多く、指導する側にストレスが募ることも珍しくありません。そこで今回は、公認心理師・産業カウンセラーとして多世代の支援に携わる大野萌子さんに、Z世代のバックグラウンドと円滑な関係性構築のヒントを伺いました。

オーダーが間違っていても何も言わない?

私は長年、カウンセリングやセミナーを通じて若い世代と関わっていますが、その中で必ず投げかける質問があります。『一人でランチに行き、食後にホットコーヒーを注文しました。ところが出てきたのはアイスコーヒーでした。そのときあなたはどうしますか?』
回答は「店員に伝える」と「そのまま飲む」に分かれます。かつては後者が2〜3割程度で、その理由は「めんどう」「飲めるなら構わない」「店員が忙しそう」などの理由がほとんどでした。しかし近年、「黙って飲む」と答える若者が6割に増えています。その理由は「何と言えばよいか分からない」「伝えるタイミングがつかめない」「相手にどう思われるか気になる」など、対人関係への不安が目立ちます。単なる遠慮ではなく「伝えること自体への恐れ」や「やりとりに対する自信のなさ」が根っ子にあるのです。
スマートフォンやSNSが当たり前の環境で育ったZ世代は、文字によるやりとりには慣れています。文字なら考える時間があり、失敗を避けやすい。一方、対面では瞬時の反応が求められるため"会話の瞬発力"が低下して「どう返せばよいか分からない」と悩む若者が少なくありません。上司世代には「いったい何を考えていることやら」とか「主体性がない」と映りますが、実際には"伝えることへの不安"を抱えているのです。この心理を理解しなければ、世代間の溝はいつまでたっても埋まることはありません。
どう質問していいか分からない

デジタル世代を生きるということ

Z世代の拠りどころは「検索」
インターネットが普及し始めた時代に育った世代にとって、デジタルツールは「新しい便利な道具」でした。ところが、Z世代にとってはすでに空気のように存在する社会基盤です。彼らは生まれたときからスマートフォンが身近にあり、動画とともに成長してきたため、あらゆる意思決定をインターネットを介しておこないます。上司世代にとってのメディアとは、情報や娯楽を"享受するもの"でした。これに対してZ世代は、スマートフォンやSNSを用いて必要な情報や娯楽を自ら検索し"共感できる人や話題を探す手段"として活用しています。
彼らが日常で拠りどころにしているのは「検索」です。食事や買い物など、行動の前にネットで情報を調べ、内容を把握してから行動に移す。メニューや価格、口コミまで確認し、未知の状況を減らして「安心して選びたい」と考えます。また、膨大な情報の中で効率を求める姿勢から「コスパ」や「タイパ」を重視するのも彼らにとっては自然な流れです。映画や音楽を倍速で視聴するのも「話題に遅れたくない」「時間を有効に使いたい」という、デジタル時代を生きる上での"適応行動"といえるでしょう。

失敗したくないZ世代

現代の若者は、上司世代のようにブランド品や海外旅行などの贅沢に強い憧れを抱くことは少なくなっています。とはいえそれは"我慢"ではなく、一定の豊かさの中で育ち、浮き沈みのある暮らしよりも「安定した日常」に価値を見いだしているためです。多くを所有するより、必要最小限で暮らす"ミニマリスト"的な生き方を好み、他者とシェアすることにも抵抗がありません。ただ、その安定志向の裏には「失敗したくない」「損をしたくない」という慎重さが見られます。
組織やグループでも「悪目立ちしたくない」と考え、積極的に前へ出ることを避ける傾向があります。たとえば、LINEなどで情報共有をする際、誰も最初に発言したがらないのは、SNSでの"炎上"を恐れる心理の表れです。反応が読めないうちは様子をうかがい、他人の意見に合わせて無難に発言する。そんな慎重さが定着しています。
この姿勢は"前例踏襲"というより、批判やトラブル、ストレスなどを避けるための"自己防衛反応"といえます。上司世代が「自由に意見を言ってほしい」と望んでも声が上がりにくいのは、無関心だからではありません。むしろ、衝突を避けつつ周囲との調和を保とうとする。それがZ世代の処世術なのです。
失敗したくない。だから発言したくない

リアルな現実を自分らしく生きる

将来のための我慢はしたくない
近年の小中学生が憧れる職業には、野球選手やケーキ屋さんといった夢よりも、公務員や会社員など堅実な仕事が上位に並びます。大人の目には少し寂しく映るかもしれませんが、早くから現実を見ている表れともいえます。一時期はユーチューバーが人気職種として話題になりましたが、動画を日常的に見て育った世代にとって、配信者は特別な存在ではなく、身近な「働き方のひとつ」です。社会全体が夢を語りづらくなった今「もっと大きな夢を」と望むのは、上の世代の一方的な価値観です。Z世代にとって重要なのは、無理に夢を追うことではなく、現実を見据え、自分のペースで生きることです。
高収入でも自由な時間を奪われる働き方は「ブラック」とみなし、あっさり距離を置きます。その一方でSNSでは「いいね」の数や写真映えを意識して他者の評価にも敏感です。平等や多様性を重んじつつも自分をどう演出するかには強いこだわりがあり "自分らしくカスタマイズされた生き方"を求めます。
彼らにとって大切なのは「今、この瞬間を自分らしく生きること」に他なりません。将来のために我慢するという発想には共感しづらく、上司世代が「今は苦労の時期だ」と諭しても響くことはありません。

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

私は常々「Z世代と向き合う上で大切なのは、相手を変えようとするのではなく、理解し合う姿勢を持つこと」と申し上げています。そこで重要なのは、ビジョンを言葉にし、丁寧に(辛抱強く)対話を重ねることです。とかく「話が通じない」と言われるZ世代ですが、彼らは不安定な時代の中で、慎重に言葉を選び、摩擦を避けながら生きる術を身につけてきました。自己主張をしないのも無関心からではなく、変化の激しい社会の中で"そうならざるを得なかった"結果です。前回の記事でも紹介したように、Z世代との向き合い方で特に意識したいのは「曖昧な指示は出さない」という心がけです。背景や目的を明確に伝えられれば、彼らは力を確実に発揮してくれます。対面に限ったことではなく、リモート越しでも同じです。権威を振りかさず誠実に向き合い、じっくり言葉を交わせば、心が通じる瞬間が必ず訪れます。
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■記事公開日:2025/11/25
▼構成=編集部 ▼取材・文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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