北海道・室蘭での創業から120年以上にわたり、日本の産業界を支え続けてきた技術商社 ナラサキ産業株式会社。伝統ある企業でありながら、同社は現在、時代に即した柔軟な働き方の実現に向け、変革を進めています。2024年9月には、全国ビジネスの拠点である本社を「MSH日本橋箱崎ビル」へ移転。さらに2025年9月には、北海道支社(本店)を、札幌・大通公園に面した「エムズ大通ビル」へと移転しました。両拠点に共通するコンセプトは「風通しが良く、コミュニケーションが活性化するオフィス」。先行して移転した本社の取り組みをモデルに、北海道でも対話と連携を重視した空間づくりがおこなわれました。今回は、移転計画のキーパーソンである執行役員 経営管理本部 総務人事部長の諸橋洋一さまと、同本部 総務人事部総務課長の辻脇篤さまにインタビューを実施。移転の背景や新オフィスに込めた想い、そして拠点に生まれつつある変化について伺いました。

オフィス再編は経営戦略。空間投資がもたらす持続的成長の条件。
ナラサキ産業株式会社 執行役員 経営管理本部 総務人事部長 諸橋洋一さま 経営管理本部 総務人事部 総務課長 辻脇篤さま
部門を越えて価値を生むための「ワンフロア化」
諸橋:本社には、グループを含めて4つの本部があります。これまでは各本部がそれぞれの役割を果たしてきましたが、今後は部門同士がより密に連携し、シナジーを生み出していくことが中期経営計画における重要なテーマです。
移転前のオフィスは3フロアに分かれており、一定の交流はありましたが、部門間の連携という点では十分とは言えず、以前から「より効果的な環境が必要だ」という認識はありました。その後、2020年からのコロナ禍を経てリモートワークが急速に普及しましたが、当社では「商社としての在り方」を改めて整理し、働き方の軸を対面(オフィスワーク)から大きく転換する判断はしませんでした。
そうした前提のもと、移転を睨んだ物件選定で重視したのが、すべての部門をワンフロアに集約できることでした。社員同士が顔の見える距離で仕事ができる環境の整備。これがオフィス移転の出発点です。
コミュニケーションを起点に組織の力を引き出す
諸橋:オフィスづくりで重視したのは「社員のエンゲージメントをいかに高めるか」という点です。商社の役割は、時代の変化を読み取り、新しい価値を創造し、それを社会に届けていくことにあります。その原動力になるのは、社員一人ひとりの主体性や、組織への関与の度合いだと考えています。
先行きが見えにくい時代だからこそ社員が自ら考え、行動する力はこれまでより重要になります。その基盤になるのが日々のコミュニケーションです。
そこで新オフィスでは、フリーアドレスの導入をはじめ、空間を過度に区切らないレイアウトとしました。社員同士が言葉を交わしやすい環境を整えることで、日々のやり取りの中から新たな発想やビジネスのヒントが生まれることを期待しています。
辻脇:ビジネスにおけるエンゲージメントは、単に雰囲気が良い、仲が良いといったことを指すものではありません。組織として目指す方向を共有し、それぞれが持つ知見や経験を持ち寄れる関係性があって意味を持つものだと考えています。
したがって、今回のオフィス移転も「器」を新しくすること自体を目的にはしていません。社員同士の対話や連携が、どんな場面で、どのように生まれるのか。その点を重視してオフィスの在り方を考えました。
フリーアドレスが変えた日常の関わり方
諸橋:本社では、ワンフロアに全ての部門を集約して"本部単位でのフリーアドレス"を導入しました。
固定席を持たないことで、日々隣に座る相手が変わり、業務上の会話が自然に生まれる環境になりました。部門が違えば、担当している案件や視点も異なります。そうした情報が日々の会話の中で共有されることで業務理解が進み、コミュニケーションのハードルも下がってきたと感じます。
導入当初は固定席がなくなることに対する戸惑いの声もありましたし、資料の管理方法や働き方が変わることへの不安もありましたが、実際に運用を始めてみると、新しい環境に順応するスピードは想像していたより早いものでした。定量的な効果測定は行っていませんが社員同士の会話は明らかに増えています。
東京での手応えを北海道へ、そして次の拠点へ
諸橋:2025年9月に移転した北海道支社のオフィスは、本社での取り組みを踏まえたうえで計画しました。北海道支社は従来からワンフロアでしたが、長く使ってきたオフィスで、現在の事業環境や働き方に必ずしも合致していない部分がありました。
本社の移転を進める中で「人が自然に集まり、交流が生まれる環境」という考え方は、東京だけではなく、北海道でも同じように必要ではないかという認識が社内で共有されていきました。そこで、東京で議論してきた考え方を、そのまま北海道でも形にすることにしました。
北海道支社では、多目的スペースの設置やレイアウトの見直しに加えてオールフリーアドレスを採用しています。規模は異なりますが、部門が連携してシナジーを生み出すという姿勢は東京でも北海道でも変わりません。
辻脇:北海道支社の移転にあたっては、実際に現地のメンバーが本社を見学して、新しいオフィスでの働き方や雰囲気を体感しました。図面や説明だけではなく、実際に現地を見て理解したことで「オフィス環境を変えることが社員の活性化につながる」という認識は、より具体的なものになったと思います。
大きな拠点は東京と北海道ですが、ほかの拠点でも同時期、あるいはそれ以降に移転やリニューアルを進めています。拠点ごとに条件や規模は異なりますが、フリーアドレスを取り入れることやコミュニケーションの場を重視する考え方は共通しています。
「人がつながる場」としてのオフィス
諸橋:商社ビジネスの在り方は、単なるモノの流通ではなく、人と人との信頼関係を基盤に価値をつなぐことにあります。当社はその本質を大切にし、対面でのコミュニケーションを重視しながら業務を進めることを基本としています。
したがって、コロナ禍においても「オフィスをなくす」あるいは「減らす」といった議論はありませんでした。「オフィスはコミュニケーションの要である」という考え方はこれからも変わりません。
辻脇:商社の仕事は、部門が連携することで初めて、お客さまに対して総合的な提案が可能になります。その基盤となるのが「コミュニケーションの取りやすい環境」です。だからこそ対面をベースに、人が自然に集まり、話がしやすいオフィスであることが重要だと考えています。

1.本社エントランス
本社のエントランスを入ると左手には、ナラサキ産業120年の歴史を物語るヒストリーウォールが設けられています。
ヒストリーウォールを通じて歴史や理念などを直感的に伝えることで第一印象をコントロールし、競合他社との差別化や信頼性の向上を図っています。また、社員も自社のアイデンティティが表現された空間を通ることで、エンゲージメントが高まり、働くモチベーションの維持・向上につながります。
2.執務エリアのフリーアドレス化
オフィスのフリーアドレス化は、単なる固定席の廃止ではなく、働き方や情報の扱い方そのものを見直す取り組みとして位置づけられています。組織の垣根を越えた交流や柔軟な働き方を実現するためには、物理的な環境整備と同時に業務スタイルの変革が欠かせません。ナラサキ産業では次代に向けてこれらを実践。経営のキーステーションである本社、北海道支社を皮切りにフリーアドレスの導入が進みました。
長い歴史を持つ企業として受け継ぐべき文化を大切にしながらも、社会環境の変化に対応するために変えるべき点は変える。フリーアドレスは、ナラサキ産業がこれからの働き方を模索する中で踏み出した、大きな転換点となっています。
3.多目的スペース
本社、北海道支社共に設けられた多目的スペースは、休憩やソロワーク、簡単な打ち合わせなど、さまざまな用途で活用されており、席を立って場所を変えるだけで思考が切り替わり、自然な会話やアイデア交換が生まれる場にもなっています。働き方を一律に定めるのではなく、社員一人ひとりの判断に委ねる。その考え方を空間として具現化した多目的スペースです。
4.多彩なミーティングスペース
迅速な意思決定が求められる営業部門の特性に合わせて、短時間の打ち合わせや確認作業をおこなえるミーティングスペースを複数設置。これらのスペースは執務席からの動線上に配置されており、必要なタイミングで即座に対話ができる環境を整えています。形式的な会議に頼らず日常的なコミュニケーションを促進することで、業務のスピードと質の向上を図っています。
5.集中スペース
フリーアドレスは、オープンな環境が交流を促す反面、深く考え、静かに作業できる場所もオフィスには欠かせません。そこで、自然光が入り開放的でリフレッシュしやすい窓際席を設けたり、座り姿勢と立ち姿勢を簡単に切り替えられることで、長時間同じ姿勢でいることによる体への負担を軽減できる昇降デスクを設置したりするなどして、集中力を保ち生産性を上げる工夫もなされています。
6.リフレッシュコーナー
本社では、各階フロアの南北のブランクスペースをリフレッシュコーナーとして、窓外の景観を楽しめる開放的な空間をつくりあげています。スペース内には自動販売機と椅子を備え、執務エリアとは異なる時間の流れを感じられる環境に。業務の合間に自然な「間」を生み、オンとオフの切り替えを促しています。
■記事公開日:2026/02/25 ■記事取材日: 2026/01/15・02/12*記事内容は取材当日の情報です *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼撮影=田尻光久