QUADRAC株式会社は、公共交通向け決済・認証プラットフォームを自社開発する技術主導型ベンチャー企業です。クレジットカードのタッチ決済やQRコードによる鉄道やバスなどの公共交通機関の運賃決済を行うクラウドサービス「Q-move」を提供するとともに、交通事業者や自治体との連携を通じて地域の交通利便性を向上させるMaaS(Mobility as a Service)や地域活性化プロジェクトにも取り組んでいます。競合がひしめく領域においても、交通事業者に特化した技術力とサービス統合力で差別化し、社会的価値の高い成長市場で事業を拡大。今年9月には本社を南青山から晴海に移転し、さらなる事業拡大と社員の働きやすさの向上を目指しています。そんなQUADRACの新オフィスを、代表取締役社長兼CTOの高田昌幸氏にご案内いただきました。

1.office area
QUADRACの執務エリアは、壁や仕切りを極力なくしたオープンオフィス設計を採用したことにより、社員同士が気軽に声をかけ合える環境が、部門間の連携やコミュニケーションの活性化を自然に促しています。空間全体を見渡せる開放的なレイアウトは、明るく風通しの良い印象をもたらすと同時に、経営層と社員の"心理的な距離"を縮め、組織全体の透明性を高めています。
また、一部にフリーアドレスを導入することで、業務や気分に応じて柔軟に働く場所を選べるようにしました。部署を越えて交流が生まれやすくなり、新しい発想や協働のきっかけが広がっています。快適な環境づくりは社員のモチベーション維持にもつながり、革新性と成長志向にあふれるベンチャー企業らしい、フラットで開かれた企業文化を体現しています。
2.refresh area
オフィスの休憩室やリフレッシュエリアに注目することは、多様な働き方や価値観を反映しており、いまや企業にとって欠かせない要素となっています。キープレスの取材企業を見ても、それは単なる設備面での福利厚生ではなく、従業員への姿勢や働きやすさを示す指標として位置づけられています。
QUADRACにおいても、ONとOFFの切り替えが難しくなりがちだったこれまでを見直し、休憩時間は"心身をリフレッシュさせて集中力を回復させるために不可欠なインターバルタイム"として、執務エリアに隣接しながらも一線を画す形で、広く明るく快適なリフレッシュエリアを設けました。このような休憩スペースは、単なる福利厚生ではなく「人を大切にする姿勢」を示す象徴です。働きやすさを求める求職者にとっても、企業の魅力を伝える重要なアピールポイントとなります。
3.conference room
会議室はすべてクローズドタイプで構成されており、外部来客対応や社内ミーティングなど、多様な用途に応じて使い分けられます。各室でオフィス家具や壁の色調を変えることで、それぞれ異なる雰囲気を持たせ、打ち合わせの内容や気分に合わせて空間を選べるよう工夫しています。
特に窓際に配置された大会議室は、広い窓から自然光が差し込み、明るく開放的な空間に。大型モニターを備え、対面・オンラインを問わずスムーズな議論を可能にしています。QUADRACではプロジェクトごとの打ち合わせや開発連携など、会議室の利用頻度が高く、社内外のコミュニケーションを支える中心的な場となっています。
4.meeting desk
執務エリアの随所に設置された4人がけのミーティングテーブルは、軽い打ち合わせや進捗確認などに活用されています。会議室を予約するほどでもない内容を、気軽に話し合える環境です。資料を広げながら意見を交わしたり、開発メンバー同士で確認作業をしたりと、日常的なやり取りを促す小さな工夫が、組織全体のスピード感を支えています。こうしたスペースがあることで、会議室の空きを待つことなくその場で相談でき、仕事のリズムを崩さずに済みます。効率的でフラットなコミュニケーションを実現する使い勝手の良い設計といえるでしょう。
5.concentrated area
ここ数年、どのオフィスを訪れても「集中ブース」を見かけるようになりました。QUADRACでも例外ではなく、個々が落ち着いて業務に向き合える集中ブースを設けています。さらに、半囲いのパネルで周囲の視線を遮りながら立って作業できるスタンディングデスクも導入し、姿勢や気分を切り替えながら集中できる環境を整えています。周囲の音や人の動きを気にせず会話できるため、オンラインでの打ち合わせや面談、リモートミーティングにも最適です。オフィスが「集まる場」から「成果を生む場」へと進化するなかで、チームでの協働と同じくらい、"一人で集中する時間"の重要性が高まっています。
6.test room
オフィスの一角に設けられたテストルームは、開発の仕上げを担う重要な空間です。ここでは、自社で開発した決済・認証システムの完成品を実際に稼働させ、きちんと作動するかを徹底的に検証しています。
長時間稼働させて不具合や耐久性をチェックする「長期テスト」や、新機能を追加した際に既存機能へ影響がないかを確認する「リグレッションテスト」など、さまざまな検証をおこなっています。公共交通という社会インフラを支える同社にとって、システムの信頼性は何よりも重要です。テストルームはその信頼を守るための"最後の砦"と言えるでしょう。

人と人の距離を取り戻してinnovationを生む。
QUADRAC株式会社 代表取締役社長 兼 CTO高田 昌幸さま
"距離"の壁を越えるためにオフィス移転を決意
移転前は南青山のオフィスビルの2階に拠点を構えていました。事業が軌道に乗り人員も増えてきたため、同じビルの9階にもう1部屋を追加で借りました。ところが、この"フロアの分断"が思いのほか大きな影響を及ぼしたのです。
フロアが違うだけで日々の顔合わせが減り、誰が出社しているのか、どの案件が進んでいるのかといった状況がつかみにくくなり、さらには、問題が起きた際に全社的な危機感や情報共有がうまく伝わらない。これまで当たり前にできていた意思疎通が、少しずつズレていくのを感じました。
事業拡大にあたって、さらにもう一部屋を借りる必要性に迫られましたが、「それならいっそ、一か所に集約してしまおう」という結論に至りました。つまり、移転の本質的な理由は単にスペースの確保ではなく "人と人の距離を取り戻す"ことにあったのです。
弊社は、決済・認証プラットフォームの自社開発を通じて、鉄道やバスといった公共交通インフラに新たな価値を組み込む事業を展開しています。モバイル決済やQRコード、クレジットカードタッチ決済など、多様な支払い手段に対応した端末の企画・開発からテスト、出荷までをワンストップで担っているため、日常的に部門間の連携が欠かせません。だからこそ、物理的にも心理的にも分断を生まない環境づくりが必要だと強く感じたのです。
"風通しのよさ"をデザインして組織文化を育む
新しいオフィスを構想するうえで最初に掲げたキーワードが"風通しのよさ"でした。組織を活性化させるためには、まず空間を開くことが肝心。執務エリアにはパーティションを設けず、全体を見渡せるワンフロア構成にしています。誰がどこで働いているのかが一目で分かり、部門や役職の垣根を越えて自然と声をかけ合える。そうした「関係性の可視化」が、私たちの理想とするオープンな文化を支えています。
弊社では、コロナ禍の以前から「顔を合わせることの大切さ」をずっと重視していました。リモートワークが一般化する前は、基本的に出社を前提としていましたが、コロナの長期化でやむを得ずハイブリッド体制に移行しました。それでも、出社してコミュニケーションを取りながら仕事を進める基本姿勢は変わりません。オフィスとは単なる作業場ではなく、人と人の信頼を醸成する場だと考えているからです。
この考えはオフィスレイアウトにも表れています。新オフィスに移転しても、役員室も社長室も設けていません。私自身の席はやや離れた場所にありますが、特別なデスクや椅子ではありません。上下関係を感じさせる物理的かつ心理的要因を排除することで、社員が気軽に話しかけられる雰囲気が生まれました。いまでは、こちらから指示を出す前に、社員のほうから自然に声をかけてくれる。そんな信頼関係が少しずつ根付いてきた実感があります。"風通しのよい空間"とは、単に開放的な環境を指すのではなく、透明性の高い組織文化そのものを象徴していると私は思います。誰もが自由に意見を言える環境は、組織の健全さを保ち、イノベーションを生む土壌にもなる。そう信じて、この空間をつくりました。
未来を創る新拠点として多様な働き方を支える
移転計画を具体化するなかで、いくつかの課題が見えてきました。真っ先に挙がったのが、製品を保管するストックヤードの不足です。弊社は製品の組み立てや検査、出荷をオフィス内で一貫しておこなっているため、旧オフィスでは資材や部品が増えるとオフィスの一角を圧迫していました。段ボールや部材が日々積み上がり、整理が追いつかない状態です。新オフィスではそれらを整理できる専用スペースを確保し、安全かつ効率的に作業できる環境を整備しました。また、会議室やミーティングスペースの拡充、女性社員から要望の多かったリフレッシュスペースの設置も課題でした。コミュニケーションの質を高めるためには、集中と休息のバランスも重要です。
こうした要件を満たすスペースを探していたところ、三鬼商事さんからご紹介いただいたのが、ここ『晴海アイランドトリトンスクエア オフィスタワーX』でした。広さ(439.25坪)とコストのバランスやアクセスの良さに加え、将来的な事業拡張にも対応できる柔軟性が決め手になりました。
働き方の設計にも工夫を凝らしています。機密性の高い資料を扱う管理部門やエンジニアは固定席を、外出が多い営業部門はフリーアドレスを採用しました。「お気に入りの席」にこだわる社員もいますが、そうした文化の変化は時間をかけて育てていくものだと考えています。
ともあれ、柔軟な働き方を支える空間は、社員の創造性を解き放ち、新しい価値を生み出すための基盤となります。弊社はこの新しいオフィスを"未来を創り出す拠点"と位置づけています。ここで交わされる対話やアイデアが、次のイノベーションの種になる。オープンで風通しのよい空間から、新しい協業やビジネスの可能性を生み出し、公共交通の未来を支える技術とサービスを発信していきたいと思います。