株式会社アイシンは、1965年の創立以来、モビリティの進化とともに、挑戦と成長を続けてきた自動車部品のグローバルサプライヤーです。自動車部品をはじめ、エネルギー関連機器等を展開しており、経営理念「"移動"に感動を、未来に笑顔を。」のもと、ものづくりの枠を超え、「移動の価値を提供する企業」へと進化を加速し、新たな価値創造に挑戦しています。
2025年3月、同社は東京・京橋の「ミュージアムタワー京橋」へ東京事務所を移転しました。新拠点は本社との連携およびステークホルダーとのコミュニケーションがとりやすい好立地にあり、社員同士や外部との連携を促進する空間を備えています。新拠点は、さらなるビジネスの活性化と新たな価値創造に挑戦し続けるための共創の場としても注目されています。取材当日は、移転にあたり東京側を担当した、グループ経営戦略本部 総合企画部 渉外室渉外担当次長・前田紀美氏、同室東京渉外グループ長・服部信宏氏、同グループ小宮山美香氏にご案内いただきました。

Reception Area
レセプションエリアは、来訪者に安心感と信頼感を与えると同時に、企業の「顔」として姿勢や価値観を体現する空間であることが求められます。アイシンでは、快適性や案内機能の整備に加えて、レセプションに込めるべき3つの要素を重視しました。
第1は、グローバルサプライヤーとしての技術力やグループの一体感を訴求する場とすることです。具体的には、AISINロゴやカンパニーカラーである藍色を取り入れ"アイシンらしさ"を視覚的に表現しました。第2に、会社紹介の場としての機能です。モニターを設置して会社の理念や起源、CM映像を放映することで、訪れた方に会社の歩みと想いを自然に伝えられるようにしています。第3には、製品紹介の場としての役割を付加しています。製品紹介ビデオに加え、実機やモックアップを展示することで、事業を直感的に理解していただける構成に。アイシンの魅力と未来志向を象徴する空間となっています。
Work Area
執務エリアにおいては、当オフィスは、渉外や営業活動のキーステーションとしての役割が強く、多様な働き方に柔軟に対応できる点が大きな特長となっています。
機能の異なる部署やグループ会社が同居していることから、オフィス全体をフリーアドレスとするのではなく、各職場単位でのエリア分けを維持しつつ、固定席とフリーアドレスを併用する形式を採用しているのも特徴的です。
これにより、業務上の一体感や機密性を確保しながらも、部署を横断した交流や柔軟な働き方を可能にしています。
加えて、最近のABWの考え方を取り入れ、"共用エリア"を充実させたことで、他職場とのコミュニケーションの活性化を促す仕掛けも組み込まれていました。
Lounge
オフィスの中央部にあるラウンジは単なる付帯空間ではなく、働く環境の質を高める重要な要素として位置づけられています。
ラウンジは、前テナントが使用していた仕様をそのまま活かし、床面が執務スペースより高く中央に位置することから、日ごろは、食事や休憩だけを目的とするのではなく、気分を変えて業務に集中したいときや、少人数で気軽に打合せをおこないたいときに活用できる"ワークラウンジ"として機能しています。また、非常時には、フロア全体の視認性が高いため、災害対策本部としても活用できる設計となっています。
さらに、本社や他拠点からの出張者が、隙間時間に立ち寄れる"サテライトオフィス"としても利用されており、社員同士が偶然に出会える場と柔軟な働き方を支える場としても使われています。
Meeting Room
近年の潮流は閉鎖的な会議室を減らし、執務エリアにフリースペースやファミレスボックスに代表される完全オープンのミーティングスペースを設けて、自然な対話を促す設計が主流になりつつあります。
しかし、首都圏で営業・渉外活動を担うアイシン東京事務所では、少人数から大人数まで幅広いステークホルダーとの対面会議が増えることを見込み、あえて会議室を充実させており、現状は、VIP対応の応接室やプレゼンテーション可能な大会議室、複数人が同時参加できるWeb会議室に加え、中・小規模を含めて計10室を設けています。
さらに機密性を確保しつつも、室内利用者の安全確認が室外からもできるよう、ガラススリット入りのドアに交換したり、既存のブラインド内蔵型ガラスフォールは下50㎝を開けるルールで運用しています。これは移転前のオフィスで、完全に閉ざされた部屋で社員の異変に気づけなかった経験を踏まえた設計であり、安心と利便性の両立を意図したものです。
Focus Area
執務エリアにおける多様な働き方を支える仕組みの一つとして、テレブースや集中ブースが設置されています。これは、周囲の音や視線を気にせず業務に没頭したいという従業員のニーズに応えたもので、通常のオープンスペースでは得にくい高い集中環境を実現し、日常業務での効率化向上に寄与しています。
ラウンジに加え、集中ブースの半分は、本社や他拠点からの出張者のサテライトオフィスとして利用できるようになっています。
※写真左:テレブース、写真右:集中ブース

「安全・安心」を基盤に、社員が主役となる未来へ
●新オフィスの選定条件
オフィス選定において重視したのは、"安全・安心"と利便性、そしてエントランスの雰囲気です。
私たちは過去に地方工場で被災した経験があり、会社としてBCP(事業継続計画)には非常に敏感です。東京に大地震が起きた場合、どう社員を守り、いかに事業を継続するか。これまでも備えや啓発活動を続けてきましたが、移転にあたり重要な条件の一つとしたのは"災害に強いビルであること"でした。
その点、『ミュージアムタワー京橋』は理想的な物件でした。都のハザードエリア外に位置しており、ビルには美術館が入っていることから、高い免振性能を備え、72時間の電力供給もあり、ビル管理もしっかりしておりますので、災害が起こっても従業員を守り、事業継続が可能です。
その上、ビル内に入居会社用の昼食カフェや無人コンビニがある等、"働く従業員に寄り添った施設"が備えられており、1フロア1テナントで入居できたことも大きなメリットでした。セキュリティを検証するなかで、3階の総合受付と連動してかなり堅牢な入退室管理がおこなえることが分かり、非常に効果的だと感じました。このように従業員のモティベーションアップや生産性向上につながる利便性のある立地と安心して働けるビルであることが、本社総務部の賛同も得られ、最終決裁者である本社グループ人事本部長の決め手になりました。
●居抜き物件との"千載一遇"の出会い
移転のきっかけは唐突でした。2024年半ば頃、入居していたビルから急遽立ち退きの協力依頼があり、期限は2025年3月末。非常にタイトなスケジュールで新オフィスを探して契約し、内装工事を行い、引越しを完了させる必要に迫られたのです。このビルに出会えたことは本当に幸運でした。
前の入居企業さまがオフィス什器を良好な状態で残されており、内装を部分的に改装して見栄えを整えるだけで、私たちの仕様に合わせられると判断でき、"妥協せずに移転できる"という感触が、背中を強く押してくれました。
また、利便性の高い立地への移転は賃料の平米単価がアップしますので、従前のオフィスよりやや狭い400坪という広さの1フロア物件はとても希少で、これもまた"出会い"だったと思います。
●3つの「O」で実現する新しい働き方
私たちが今回の移転で重視したフロアデザインのコンセプトは、3つの『O』です。Open、Opportunity、Oasis。この3つを軸に、新しいオフィスを設計しました。
Open=改装前は、計14の個室・会議室があり、その壁のせいもありクローズドな環境になっていました。思い切って壁を取り払い、風通しの良いオープンな空間をつくりました。これにより、執務フロア全体に窓からの自然光が入って明るくなり、部署の枠を超えて自然に会話や情報交換が生まれるようになっています。
Opportunity=ステークホルダーや他部署との交流や偶発的な出会いが、新しい発想やコラボレーションにつながります。社内専用エリアには自由に使える打合せスペースを増やし、お客様とのコラボレーションにも使いやすい仕様の大・中・小の会議室を設置したことで、気軽にアイデアを出し合う機会が増えました。
Oasis=働く環境を心地よいものにするという発想です。中央部分のラウンジやテレブース・集中ブースといった空間は、出張で東京に来る社員のサテライトスペースとしても活用しやすくしました。以前は社外のカフェやレンタルブースで仕事をせざるを得ませんでしたが、今は心置きなく腰を据えて働ける場所がある。この改善は、想像以上に喜ばれています。
●人を主役に据えた経営理念とオフィス移転の意味
アイシンは"働く仲間こそが最大の強み"と考え、経営理念における提供価値の最初に"働く仲間"を位置づけています。働く仲間へ働きがいと人生の幸福を提供することで、新たな価値創出につながり、いわば"Win-Win"の関係が事業戦略や経営理念の実現につながると考えています。
急激な量的拡大期には"効率よく成果を出し続ける力"が求められてきました。しかし、これからは社会のニーズや変化を先読みした商品やサービスを提案していく必要があります。そのためには、従業員一人ひとりが主役となり、挑戦できる環境をつくることが不可欠。今回のオフィス移転は、その理念を体現する場でもあります。
●2030年に向けた価値創造のプラットフォーム
弊社は、2030年に向けた人と組織のめざす像を「グループ・グローバル連結でチャレンジ推進」「どこよりも人が育ち、全員が活躍」している状態と整理し、①プロ人材の活躍・成長、②チャレンジの促進、③グループ総合力の強化の3つに重点を置いています。その基盤となるのが"風通しのよい職場風土"です。
新オフィスはこの文化を体現し、社員同士の自然な交流や挑戦を後押しすることで、新たな価値創造を生み出すプラットフォームとなります。移転はゴールではなく、変革へのスタート地点です。社員が主役となり、未来を切り拓く拠点として京橋オフィスを育んでいきます。
※写真右より、前田紀美氏、小宮山美香氏、服部信宏氏、