JR東日本が進める都市開発事業計画「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)」の一環として再開発が進められている高輪ゲートウェイシティ。キープレスの『ビジネスエリア特集』では、2018年9月からその進捗状況を追い続け、今年3月27日にようやく"まち開き"を迎えました。
プロジェクトの規模は、JR山手線品川駅~田町駅間に沿う約1.6km(東京ドームおよそ2個分)の広大な敷地で、羽田・成田両空港への好アクセスを活かして「Global Gateway」をコンセプトに、持続可能で快適な暮らしとビジネス環境を追求する"実験的都市"を目指しています。
さらに、最新のICTインフラ(自動走行モビリティ)を備えるなど、エリア内でCO2排出ゼロを目指したサステナブルな取り組みを展開。未来の都市モデルとなるビジネスエリアの誕生が期待されています。
高輪ゲートウェイシティは、4つの街区から構成される大規模な都市開発プロジェクトです。これらの街区は、未来志向の都市空間を創造するために設計されており、国際的なビジネス交流拠点としての役割を果たすと同時に、日本の新しい都市の在り方を標すランドマークとしての役割も担っています。
緑と木を基調に日本の四季を表現するスパイラル状の構造が特徴の文化創造棟は、世界的建築家の隈研吾氏が外装デザインを手掛けた文化施設で、展覧会、音楽ライブ、アートなど、さまざまな文化イベントに対応する「MoN Takanawa: The Museum of Narratives(モン タカナワ: ザ ミュージアム オブ ナラティブズ)」として2026年春にオープンする予定です。
JR東日本によれば、高輪ゲートウェイシティのコンセプト『100年先へ文化をつなぐ』という考えのもと、日本の伝統を世界に向けて発信する拠点になることを想定しているそうです。施設の構成は、地下3階に固定席最大1200席、スタンディングエリア約2000名収容のホールが計画され、演目に合わせて客席数を変更することができ、自在な舞台レイアウトがおこなえる近未来型のホールになる予定です。
複合棟Ⅱ(THE LINKPILLAR 2)は、泉岳寺駅近接(目の前)というアクセスの良さが特長の複合施設です。地上31階建ての超高層ビルで、オフィスや商業施設「ニュウマン高輪」、クリニック、フィットネスセンターなどビジネスワーカーを支える多様な機能を持つ施設として2026年春に開業します。
また環境性能の向上を目指して、地域の冷暖房設備を廃熱の有効活用で賄うコージェネレーションシステムを搭載。エネルギーセンターには日本最大級の蓄熱槽を備え、災害時には高輪ゲートウェイシティ全体に電熱を供給します。3街区はシティの"心臓部"であり、近隣地域の魅力と利便性を高め、未来志向の街づくり(持続可能な都市型エネルギーシステムのモデル)として全国の自治体から注目されています。
複合棟Ⅰ(THE LINKPILLAR 1)は高輪ゲートウェイ駅前に屹立するシティの象徴的なツインタワーでNorth棟とSouth棟で構成される国際的なビジネス交流拠点として機能します。
North棟には、KDDIの本社移転に伴い大規模コンベンション施設「高輪ゲートウェイコンベンションセンター」が設けられ、国際会議やビジネスイベントの開催が可能です。高層階にはまるで植物園のような空間にレストランやバーが入居して洗練された飲食体験が楽しめるようになるそうです。
South棟では、首都圏初進出のラグジュアリーホテル「JWマリオット・ホテル東京」が2025年秋に開業予定。さらに年内中には「ニュウマン高輪」が1階~5階まで約200店舗という大規模展開をします。国際的な交流と利便性が高い空間を実現し、未来の都市型ライフスタイルを創造・提案します。
高輪ゲートウェイシティは、1.6kmにも及ぶ広大な敷地内に、予約不要で無料で利用できる自動走行モビリティを導入し、訪問者に快適な移動体験を提供しています。まち開き当日デモンストレーションをおこなっていた担当者によると、このモビリティは歩行者空間での安全性を確保しながら、商業施設、オフィス、イベント会場間の効率的な移動を可能にするといいます。
環境にも配慮しており、充電は再生可能エネルギー由来の水素を使用するなど、持続可能な移動手段を実現しています。これにより、シティ全体の回遊性を向上させ「来街者が豊かな時間を過ごせるように支援する」とのこと。実際に乗車して、革新性と利便性の高い都市型生活の提案であることを実感しました。
この他にもデリバリーロボットや警備ロボットなどのICTインフラが街やシティ内を走行する計画です。
高輪ゲートウェイ駅およびゲートウェイシティの開業は、すでに地域経済の活性化にも好影響を与えています。その象徴といえるのが泉岳寺を訪れるインバウンド需要の拡大です。最寄りの泉岳寺駅は都営地下鉄浅草線と京急本線の2路線の利用が可能ですが、JR品川駅からは徒歩で約16分。忠臣蔵や赤穂浪士、寺社巡りに興味がなければ足を延ばしにくい観光エリアだったかも知れません。
ところがシティのまち開きから1か月弱で、泉岳寺を訪れる観光客が急増しているそうです。泉岳寺の中門から山門への参道横にある土産屋の店主に聞くと、2020年以降は新型コロナにより客足が減少。それがようやくここにきて「泉岳寺も賑わう寺社の仲間入りを果たした」ということでした。
2028年3月には、高輪ゲートウェイ駅と泉岳寺駅をダイレクトに繋ぐ歩行者デッキが完成する予定です。これにより泉岳寺駅周辺及び、第一京浜の田町駅方面エリアの再開発が計画され、オフィスビルや商業施設の増加も大いに期待できます。
今回の取材を通して、ニュウマンの出店が高輪ゲートウェイシティの街づくりにおける重要なポイントの1つになっていると感じました。ニュウマン高輪は単なる商業施設ではなく、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」として位置づけられており、シティのコンセプトに近い関係を持っています。
親会社であるルミネの表輝幸社長は、ニュウマン高輪のコンセプトは営利目的ではなく、「心地よい環境や、新たな出会いを提供する場」であると、まち開きに際したインタビューで話しています。とはいえ、ニュウマンやシティの他店舗で手に取る品々の価格設定は、明らかに"上質"の提供を重視しています。つまり、訪れる人がライフスタイルにこだわりを持つ裕福層を想定していることは間違いありません。ただし、同時に、多様な人々が「魅力的な体験価値を得られる場」を目指している点も見逃せません。それがシティの活気や価値を高めるための重要な装置になってもいます。今年秋の全面開業が楽しみです。