再開発と交通インフラが生む 新たなビジネスステージ広島
広島市は今、中心市街地の再開発と公共交通網の飛躍的な進化により、中国・四国地方最大のビジネス拠点としてより大きな発展を遂げようとしています。広島駅南口エリアでは大型複合施設(新駅ビル)の整備が進み、"新たな都市の玄関口"として注目を集めています。さらに、八丁堀・紙屋町・基町などのエリアにおいては最新のオフィスビルが続々と誕生し、ビジネスを活性化させる都市機能が集積。多様なビジネスニーズに柔軟に対応できるステージが整いつつあります。また、広島駅と中心市街地をつなぐ電停ネットワークの利便性向上により、移動の快適性と時間効率が大幅に向上。広島市ならではのスマートなワークスタイルを支えるビジネスインフラが構築されました。
広島駅南口周辺エリア『広島駅南口広場の再整備』
駅から広がる経済圏 中心市街地と連動する再開発の波
編集部が前回広島市を訪れたのは2023年3月。当時の広島駅は「広島駅南口広場の再整備等に係る基本方針」に基づき、駅ビル建て替え工事の真っ只中にありました。あれから2年が経過し、20階建ての新駅ビルが完成。今年3月には正式に開業を迎え、広島市の"表玄関"である南口エリアはインバウンド需要も相まって一層のにぎわいを見せています。
再整備は単なる駅周辺の利便性向上にとどまらず、八丁堀、紙屋町、基町といった中心市街地のビジネスエリアにもインクルーシブな好影響を与えることが期待されます。
そうしたなか、整備計画のハイライトである「路面電車の駅ビル2階への乗り入れ(駅前大橋ルート)」は、6月6日の深夜に試験運転を実施(正式開業は8月3日予定)。市の担当者は地元メディアの取材に対して、「路面電車が駅ビルの2階に乗り入れるのは日本で初めての試み。多くの方に足を運んでいただいて、楽しんでもらいたい」と期待を寄せていました。
路面電車と駅ビルの直結、さらに歩行者ネットワークの整備によって、駅と中心市街地との移動が格段にスムーズになり、新幹線の乗降客がそのまま八丁堀や紙屋町へ足を運ぶ新たな動線が形成されます。さらに、駅周辺の都市空間の洗練化や新しい施設の整備は、広島市の"都市としてのブランド価値"を押し上げて、再開発によって大きく変わりつつある中心市街地への期待感を拡大させる効果も見込まれます。
とりわけ、これから大規模再開発が予定されている八丁堀や基町エリアにおいては、新しいまちづくりに対する機運が高まり、駅周辺と中心市街地の連動的な発展とビジネス人流の活性化が期待されます。
※2025年6月6日撮影。この日深夜、試運転が実施され、広島駅新駅ビル2階に路面電車が乗り入れました。
八丁堀エリア『広島八丁堀3・7地区市街地再開発事業』
再開発計画が前身!YMCAを含む複合ビル3棟の建設へ
広島市中心部、八丁堀交差点からほど近いエリアで、大規模な都市再開発がいよいよ本格始動します。「広島八丁堀3・7地区市街地再開発事業」は、戦前から地域とともに歩んできた広島YMCAや老朽ビルが立ち並ぶ一帯を対象に、現代的な都市機能を備えた複合施設へと再構築する計画です。
計画地は、A街区・B街区の2つのゾーンに分かれ、それぞれ異なる役割を担います。A街区には、YMCAを中心とした教育・国際交流・集会機能、そしてオフィスなどが入る中層ビル(高さ約60m)が建設予定。B街区では、地上30階以上・高さ約120m・総戸数約400戸のタワーマンションと、中層規模のオフィスビル(高さ約60m)が建設される計画です。建物の配置間には「新公園」も整備され、にぎわいと憩いの空間が創出される見込みです。
このエリアには、昭和期に建てられた中小オフィスビルが密集しており、長らく更新の必要性が課題とされてきました。今回の再開発では、単なる建て替えにとどまらず、「住・働・学・集」を備えた都市機能の構築を通して、持続可能な地域づくりを目指しています。
都市計画の最終決定は本年度中で、着工はその後を予定。完成は2030年代半ばを見込んでいるとのこと。地域の記憶を継承しながら、未来へとつなぐまちづくりの象徴として、新たな広島の顔がここに誕生します。
紙屋町エリア 『2025年、地域と未来をつなぐ2つのオフィスビルが竣工』
快適性と機能性が融合した、先進オフィスの新標準
今年、広島市中心部・紙屋町エリアに竣工した「明治安田広島ビル」、「大同生命広島ビル」は、ビジネス環境の質的向上を象徴する存在として注目を集めており、広島市の都市機能再編においても、今後大きなインパクトを与えることが期待されています。
●明治安田広島ビル
まず注目すべきは、高機能かつ快適性に優れたオフィス設計です。働く人の健康や快適性に配慮した空間として「CASBEEスマートウェルネスオフィス認証」で最高位Sランクを取得。清潔な空気の供給や自然光の確保、バリアフリー設計、リフレッシュスペースなど、高水準の環境性能が整備されており、誰もが働きやすく生産性の向上にもつながる環境が整っています。
加えて、このビルは単なるオフィスビルにとどまらず、「明治安田ヴィレッジ広島」として、地域住民や観光客にも開かれた「集いの都市空間」としての役割も担います。1階のデッキスペースやエントランススペースは、通行人の憩いの場として活用されるほか、今後は「広島ブランド」の品々やサービスを発信するイベントも予定されています。
また、屋上のテラスやリフレッシュルームは、柔軟な働き方やチーム間の交流を促進して、「ウェルビーイング経営」や「人的資本経営」といった新しい企業の価値観にも対応。こうした先進的な空間設計は、企業活動の快適な受け皿となって、ビジネスの活性化と業績を後押しすることが期待できます。
▸ 明治安田広島ビルの募集区画
●大同生命広島ビル
今年2月に竣工した「大同生命広島ビル」は、明治安田広島ビル同様、都市機能の高度化と環境への配慮を両立させた先進的なオフィスビルとして注目を集めています。
本ビルは、建築物省エネルギー性能表示制度(BELS)において優れた評価を取得。高効率な空調・照明設備、自然採光の最大化、断熱性能の強化などを通じて、オフィスワーカーの快適性を高めています。加えて、非常用電源設備やBCP(事業継続計画)対応のインフラも整備されており、災害時でも安心して事業を継続できる環境が整えられています。
ビル内には、共用ラウンジやカフェスペースなど、利用者のリフレッシュや相互交流を促すアメニティ施設を整備。快適性と機能性を兼ね備えたワークプレイスの形成を支援しています。また、公開空地や緑化エリアの計画的な整備により、地域環境との調和を図るとともに、都市景観の質的向上にも寄与しています。
「大同生命広島ビル」は、広島のビジネス拠点における新たな象徴として、企業活動を力強く支えると同時に、環境配慮、防災機能、地域共生といった多様な側面において優れた評価を受ける、先進的なオフィスビルです。
▸ 大同生命広島ビルの募集区画
基町エリア『基町相生通地区第一種市街地再開発事業』
中枢ビジネスエリアに、広島の新しいランドマークが誕生
広島市の中心部に位置する基町エリアは、官公庁や商業施設が集積する都市機能の中核として、長年にわたり広島の経済を支えてきました。広島城や広島市中央公園、紙屋町・八丁堀といった主要ビジネススポットに隣接し、利便性・文化性・将来性を兼ね備えたロケーションです。
現在、このエリアでは、官民連携による大規模再開発プロジェクト「基町相生通地区第一種市街地再開発事業」が進行中です。プロジェクトの完成は2027年春を予定。本プロジェクトでは、官公庁や商業施設、文化施設などの都市機能が集積するこのエリアに、新たなランドマークとなる地上31階・高さ約160mの超高層複合ビルを整備します。
整備される複合ビルには、高規格オフィスや国際水準のラグジュアリーホテル、商業施設、広島商工会議所の新拠点などが集約され、ビジネス・観光・地域経済を一体的に支える都市の中核機能が集結します。とくに、オフィスや産業支援機能の充実により、地域企業やスタートアップへの支援体制が整い、オープンイノベーションの拠点としても大きな期待が寄せられています。
広島駅北口周辺エリア『二葉の里地区再開発』
再び脚光!交通結節点の潜在能力を活かす新たな一歩
かつて北欧家具の大手IKEAの出店予定地として注目された広島駅北口・二葉の里地区。前回の広島取材時には、約2haもの予定地跡の利用について青写真が描かれた段階でした。
現在の二葉の里地区では、地上34階、高さ約128.5mの大型複合施設(オフィス、マンション、ホテル、温浴施設、レストランを含む)や、10階建のオフィスビル(1階に商業施設を併設予定)を中心に、シンボルロードや広場などの新たな歩行者空間を整備して、エリアの賑わい創出を目指すプロジェクト計画が進行中。2026年2月着工、2029年3月の完成を目指しています。
一方で、当初想定されていたIKEAのような大型集客施設の誘致が実現しなかったことから、「分かりやすい魅力や集客の目玉をどのように補うのか」が課題であるように感じます。
広島駅北口の再開発は、中国・四国最大の交通結節点というポテンシャルを、いかに魅力的な都市体験に置き換えられるかが勝負です。ようやく動き始めた広島駅北口の再開発が、広島市に新たな重心を生み出すことができるか。これからの展開に注目したいと思います。