これまでオフィスの机上を占領していたデスクトップPC。近年はそうした光景が急速に少なくなっており、「2030年以降はオフィスからデスクトップPCが姿を消す」とまで予測されています。それは単なる見通しではなく、2つの"必然的要因"に基づいています。
第1の要因は、ノートPCの著しい性能向上です。ここ数年は処理速度の速さだけでなく、静音性やバッテリーの駆動時間までトータルに向上しており、音声や画像の取り扱いや複数のアプリケーションを同時に利用することもストレスなくこなせるようになりました。USBケーブルを挿すだけで大画面モニターにつなぐこともできますし、使い心地も従来のデスクトップタイプとほぼ変わりなく、持ち運びも自在です。
さらに、注目すべきはAI専用のチップがノートPCに組み込まれるようになったことです。これにより、会議の議事録を自動でまとめたり、雑音を取り除いたり、写真をきれいに補正したりといった処理が、クラウドを経由せず端末上で完結できるようになりました。このようにノートPCは、単なる「持ち運べる端末」から、日々の仕事を支える中核的なツールへと進化しつつあります。
第2の要因は、働き方とオフィスの在り様がデスクトップPCと相性が悪くなっていることです。多くの企業でフリーアドレスや、業務内容に合わせて席や場所を選ぶ働き方(ABW)が広がりつつあります。座席が固定でない以上、デスクに固定されたPCは無駄な運用コストになります。
島ごとの配線や、座席やレイアウト変更のたびに発生する再設置、故障時の入替手配など、いずれも大きな手間と負担がかかります。一方、ノートPCなら社員は空いている席に腰掛けて即稼働。会議室に持ち込む際も電源をとるコンセントを探す必要はありません。
経営の視点でも効果は明確です。大きな筐体やケーブル整理のための収納が減れば、その分座席数を増やすことも可能です。逆にオフィス自体を縮小して賃料を最適化することも検討できるでしょう。また、常時稼働を前提にしたデスクトップと比べ、ノートPCはアイドル時の消費が非常に小さいため電気代を抑えることができます。つまりノートPCは、"働き方の柔軟性"だけではなく、オフィスの設計や維持コストを同時に最適化する手立てにもなるのです。
もちろん、デスクトップが完全に不要になるわけではありません。映像編集や3D、CADなど拡張性や安定した高負荷処理が求められるクリエイティブなどの領域では、今後も主力であり続けるでしょう。ただしそれはオフィスの標準装備ではなく"専門部門の専用機"といった位置づけに変わっていきます。つまり、デスクトップPCは「時代遅れだから消える」のではなく、ノートPCの性能が十分優秀になってきたことと、一般的なオフィスがモバイル前提で設計されるようになっていくであろうこと、この二つの必然が重なった結果として、主役の座を明け渡すことになるのです。
2030年という節目は、その転換が可視化されるタイミングに過ぎません。企業がいま取るべきは、用途ごとに最適な端末を定義して、「座席と、PCと、働き方」を一体で考えオフィスを見直すこと。その判断が、コストと生産性のカーブを大きく変えていくと言えるでしょう。さらに、その選択は単なるIT環境の刷新にとどまらず、組織の柔軟性や競争力そのものを左右すると考えられます。働き方を変革するこの潮流の中で、御社はどのような選択をされるでしょうか?

■記事公開日:2025/08/27
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=AdobeStock