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株式会社 池の平ホテル&リゾーツ
長野県茅野市白樺湖

https://www.ikenotaira-resort.co.jp/

農地開墾からホテル開業へ

長野県屈指の高原リゾート・白樺湖。おそらく、訪れたことがある方もいるでしょう。そもそもこの白樺湖は、農業用水を引くためにつくられた人造湖で、その完成直後、1945年に池の平ホテルの創業者である矢島三人氏が農地開拓(高原野菜の栽培)を目的に入植。電気もガスも水道もないところに道をつくり、過酷な開墾が始まった。

1950年頃にはようやく農地開墾が終わったが、残念ながら寒冷地ということもあり、狙いであった高原野菜の栽培は困難であることが判明する。とはいえ帰るところもなく、同時並行でおこなっていた酪農と牧畜でかろうじて生活を凌いでいたと言う。そうした中、蓼科山への登山客やハイカーが頻繁に訪れるようになり、三人氏は登山客相手の宿泊施設「高原寮」を開業する。これが「池の平ホテル」の前身となる。

組織が60歳もの若返り

現在は社名を「池の平ホテル&リゾーツ」に改め、若き経営トップ矢島義拡氏がバトンを受け継ぎ、祖父が築いた歴史の重みを実感しながら手腕を振るっている。社名が示す通り、池の平ホテル&リゾーツは単に宿泊施設を運営する会社ではない。プールやボウリング場、温泉などを完備したホテルの他に、白樺湖周辺に遊園地やスキー場、ドライブイン、美術館などを運営する総合リゾート企業である。長期滞在を推進する中で、健康をテーマとしたプログラムを実施するなど、独自性の高い取り組みもおこなっている。

義拡氏は2011年に、27歳という若さで代表取締役に就任した。当時は社名こそ「池の平ホテル」であったが、現在に通じるリゾート事業の土台づくりは成され、全国的にも名の通ったリゾート企業になっていた。先代の三人氏と苦労を共にしてきたベテラン社員にしてみれば、いかに社長の身内とはいえ義拡氏はまだまだ"若造"と思われても不思議はない。意見の衝突や軋轢はなかったのか...。
「私が代表取締役になった時、祖父は87歳でした。社員にとってみれば、急に経営トップが60歳も若返ったわけで困惑したと思います。弊社に限らず、企業が存続していく中には、絶対に変えてはいけないものと、変え続けていかなければならないことが必ずあります。そこでまず私が強く意識し、実践したのは、変えてはいけないものと変えてゆくべきことを、再度私の口からも伝えることでした。

そもそもトップが60年も若返れば、必然的に多くの物事が変わってゆきます。だからこそ、あえて変えてはいけないものが何なのかに意識を集中して経営のバランスをとったのです。また何より、祖父と共に働いてきた社員たちは、この業界を引っ張っている大ベテランであり、且つ、私にとってのこの会社での大先輩です。ですから当初は、この業界と弊社の強みの本質を彼らに学びつつ、それと並行して経営者としての舵取りの腕前も磨いてゆく。そんな気持ちでいたんです」。

浸透するフロンティア精神

とはいえ、義拡氏は遠慮がちに社員と接してきたわけではない。大胆な改革は求めなかったものの、問題点は真正面から意見をぶつけ対話を重ねてきた。そうした中、古株の社員と話をしていると「この人たちは強いな」という印象を受けたと言う。

会社の歴史を紐解けば、1960年代から池の平ホテルの事業拡張は大変な勢いで進んでいる。いかに経済成長期の波に乗ったとはいえ、人間的に強くなければここまでの発展はなかっただろう。それはまさに農地開墾から脈々と続く「フロンティア精神」あってのこと。事実、その言葉を経営哲学に据えてもいる。
「通常の会社ですと、経営トップが若返ると"変化を求める新しいトップVS変化を嫌う古株"という対立構図が生まれがちだという話はよく聞きます。弊社の場合はむしろ逆で、フロンティア精神の哲学がベテランであればあるほど浸透している為、長く在籍している社員ほど保守的な発想に傾かないんです。だからこそ、そういった社員たち以上に変革者でなくてはならないことが、私自身の一番の課題です。そういった意味でも私は恵まれていたと思っています」。

お客さまにとってのベストを提供

池の平ホテル&リゾーツが事業を営む上で根幹に据えているのは「地域土着のディベロッパーであれ」という考え方だ。与えられている環境資源の中で、宿泊施設やレジャー施設、スキー場やドライブインなどを「お客さまにとって何がベストか」を考えながらつくっている。その中で、リゾートライフを堪能したい外国人観光客に対して長期滞在を可能にしたり、客室を不動産として考える商品を設けたり、地元の大学と連携した健康プログラムを提供したりと様々な取り組みをおこなっている。

「ここ最近は外国人観光客の増加に伴い、業態を問わず、インバウンド対策に慌てて取り組む企業が増えているようです。しかしながら私どもでは20年前から長期滞在を希望する海外からのお客さまを、当たり前のように受け入れてきました。もちろん最初の頃は国内外のお客さまを分けておもてなししていた時代もありましたが、今は仕組みが整っています。そうした実績も弊社の1つの強みと言えるでしょう」。

現在は、日帰りのお客さまもいれば、一泊二日のお客さまもいるし、長期滞在を希望する外国人観光客も増えています。そうした方々が、それぞれに満足できるおもてなしと、施設や設備の充実が肝心で、今ようやくそれがカタチになりつつあると義拡氏は言う。「極めて非効率ですが、客層や滞在の形態を一切問わず、それらが全て成り立つようなリゾートが理想です。実現するにはまだまだ時間がかかると思います」。

競争力を支えてきた"開拓者魂"

池の平ホテル&リゾーツでは、事業運営の土台にしていることが3つある。まず、不変的な思想として「お客様第一主義」という社是。そして会社が目指す理想として「みんなの夢をかなえる感動いっぱいの世界一あったかいリゾートを目指す」を経営理念に。さらに経営哲学である「フロンティア精神」の3つだ。
「お客様第一主義は、接客業を志す人なら誰もが心得なくてはならない言葉でしょう。2番目の経営理念については共感する若手が多いのですが、理想に共感することと、その理想に向かうまでの苦労に共感することは全く違います。抽象的な言い方をすれば「船に乗るのか、船をつくるのか」というくらいの違いがあります。人材採用をする側としては、経営哲学であるフロンティア精神に共感できる人材をいかに採用できるかが重要な経営課題になります」。
フロンティア精神という言葉は、今の人にしてみれば苛烈な印象を与えかねず、いささかアウトロー的な響きのある言葉かも知れない。しかしながら、池の平ホテル&リゾーツの競争力や競合優位性の根幹には常に"開拓者魂"があり、これをなくして独自性は反映できない。だからこそ、難易度は極めて高いが、フロンティア精神にこだわった採用を心がけているのだと言う。
「1つの試みとしては、海外からの留学生の採用です。最終的には自分の国に戻って働きたいという人もいますが、日本人とは異なる基準で採用した人の力量は非常に高く、早い段階で独り立ちして仕事ができる傾向があります。いずれにしても、国の内外は問わず、主体性をもって仕事に取組み、自ら事を起こしてゆけるような人材の獲得が、今後増々大きな経営課題となってゆくことは間違いないでしょう」。

リゾートとは"村"のようなもの

先代の三人氏は亡くなる直前、「俺は基礎をつくったからな」という言葉を残した。自分も同じような言葉を誰かに託せるようになりたいと義拡氏は言う。つまり、ガウディの建築ではないが10年、20年で完成するようなものではなく、何世代か先にようやく完成するような仕事をしたいのだと。また、それが"世界に通用する本物のリゾート"なのだと考えている。だからこそ、白樺湖が今より軌道に乗って財務的にゆとりができたとしても、他の土地で似たようなリゾート開発を手がけることはない。
「本物のリゾートというのは"村"のようなものだと私は考えているんです。スタッフの子供が小学校に上がることを把握できるくらいの距離感で仕事をしなければ、それは実現できません。私は、深く白樺湖を愛しているし、同じように考えるスタッフと一緒に仕事をして、共に成長してゆきたいと思っています」。

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■記事公開日:2019/06/20 ■記事取材日: 2019/06/10 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=編集部ライター・吉村高廣 ▼写真提供=池の平ホテル&リゾーツ

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