
「声の大きな人は出世する」ビジネス書やSNSでもたびたび引用される言葉です。確かに、会議や商談などで自信をもって話す人は存在感があり、周囲の注目を集めます。それは単に"印象論"なのか、それとも本当に"声の大きさ"が出世に影響しているのか......。
心理学や組織行動学の研究によると「声の大きさ」や「声の響き」は、リーダーシップ評価に一定の影響を与えることがわかっているそうです。たとえばペンシルベニア大学の調査では、同じ内容を話していても、はっきりと通る声で話す人のほうが「自信がある」「信頼できる」と評価される傾向が強いといいます。また、声のトーンや抑揚が豊かな人ほど昇進が速いという報告もあります。つまり"声の大きさ"そのものというより"エネルギーを感じさせる話しかた"が周囲の印象を左右するようです。

声の大きさは、自信やエネルギーの象徴として人を引き立てます。けれども、声の大きさだけで評価が決まるほどビジネスの世界は単純ではありません。声の大きさは、物怖じしない姿勢や前向きな性格といった"内面の表れ"にすぎません。明瞭で芯のある声は信頼を生みますが、場の空気を読まない大声はかえって逆効果です。
近年、発声教室やボイストレーニングに通うビジネスパーソンが増えているのも "声を整えること"が単なる発声技術ではなく、ビジネスにおける自己表現の一部と捉えられているからです。声は、あなたの意思や姿勢を届ける手段です。声の大きさだけに頼るのではなく、言葉の選び方や伝え方を磨くこと。それが、周囲から信頼され、キャリアを切り拓く力につながります。
日本では、奥ゆかしさや協調性が美徳とされ「出しゃばらず、和を大切にする」ことが良しとされてきました。ところが、社会のグローバル化が進むと、控えめでは通用しない場面が増えます。2000年代に入ると「自分の考えを主張しよう」という若者が現れ、その姿を揶揄する言葉として「KY(空気が読めない)」が流行しました。一方で「声の大きい人は出世する」といった肯定的な言葉が広まったのもちょうどそのころだったと記憶しています。声の大きさは、日本的美徳の裏返しで、グローバル社会を生き抜くパワーでもあったのです。今では、堂々と意見を述べられることが、国際的に活躍する人材の条件になっています。「日本的な慎みと国際的な発信力」とでも言いましょうか、声の大きさそのものではなく、どう伝えるかを意識することが、これからのビジネスパーソンに求められる"新しい美徳"だと思います。