全国で入学式がおこなわれた4月上旬、お昼の情報番組で司会を務めるタレントが、子どもの入学式に参列したため生放送に約1時間遅刻したことをネットニュースが大きく報じました。「タレントの遅刻が記事になるなんて、よっぽど話題がないんだな......」くらいに考えていたところ、実はその裏で、この記事に反応した読者たちが侃々諤々のバトルを繰り広げていたのです。
父親が仕事の時間を割いてまで子どもの入学式に参列することに対して、「家族の大事なイベントだからあたりまえ」とする今どき世代(20代・30代)と、「司会という責任ある立場の人が子どもの入学式を優先させるのはいかがなものか」という昭和世代との間で大激論。まさしく、上司と部下の"場外乱闘"といったバトルでした。「バカバカしい」と思いつつも、各々の主張を見ていると、やっぱり昭和世代に肩入れする自分がいる。そこで今回は、『今どき世代の価値観と、昭和世代の仕事観』について考えます。
無理をせずに仕事をしたいZ世代
「今どき世代」と呼ばれる20代・30代のビジネスパーソンは、仕事を軸とする従来の価値観から"自分らしさ"にウエイトを置く傾向にあります。
一般社団法人日本能率協会が実施した意識調査によれば、とくに、18歳から29歳のZ世代は、「自分らしい生き方を大事にして、無理なく、適度な距離感を保って仕事をしたい」という思いが強く、「他人より頑張って出世したい」という成果主義的な目標から、「心地よい仕事環境でファミリータイムを大切にしたい」といったライフバランス志向の目標へとシフトしていることが伺い知れます。
こうした価値観の変化は、コロナ禍による働き方の見直し(リモートワークの普及など)や、それに伴う意識の変化も大きく影響していると考えられます。事実、調査結果では約6割が出社とリモート勤務を併用したハイブリッドワークを希望する声が多いことも明らかになっており、今どき世代の働き方や自分のキャリアについて再考する姿勢が顕著に現れています。
世代間ギャップの根底にあるもの
仕事に向き合う熱意や関り方も、世代間ギャップが生じる要因です。たとえば、私たち昭和世代が躍動したバブル期には、「成果を出すためには徹夜もいとわない」「出世をするためには人の2倍、3倍努力すべき」といった仕事観が浸透していて、それに準じた働き方を当たり前にしていました。そしてこの"当たり前"と考える"社会の空気感"を象徴的に現わしていたのが、『24時間働けますか』というドリンク栄養剤の広告コピーでした。
しかし近年は、働き方改革やデジタルツールの進化によって、労働時間の長さよりもタイムパフォーマンス(時間対効果)が重視され、柔軟な働き方が推奨されるようになりつつあります。
むしろ今は、長時間労働は集中力やモチベーションを低下させるだけでなく、生産性の低下を招く可能性があり、「成果を出すことが難しい」と言われています。さらに、長時間労働に伴う疲労やストレスは健康に悪影響を及ぼし、延いてはそれが会社の業績にも悪影響を与えることが明らかになっていて徹夜などは論外です。効率的かつ健康的に働くことが企業にとっては極めて重要な課題になります。
互いを尊重しつつ組織力を向上させる
いかに時代が変わろうと、根本的な価値観が異なる今どき世代と昭和世代が"完全に分かり合うこと"はなかなか難しいと思います。しかしながら、仕事上の関係において重要なのは「仲良くなってグダグダ群れる」ことではなく、共通の目的(事業成果)に向かって協力し合い「個々の強みを引き出す」こと。それ以上の関係性を期待するべきではありません。とはいえもちろん、価値観のギャップを埋めようとする努力がなければ健全な対話は成立しません。
マサチューセッツ工科大学の名誉教授で、キャリア開発・組織文化の専門家であるエドガー・シャイン博士によれば、生き馬の目を抜くIT・情報社会においては、新しい価値観と感性や技術を持ったニュージェネレーションの活躍なしには、組織の成長はないと言います。そうした職場環境の中で世代間の溝を縮めるためには、昭和世代のほうから歩み寄り、一緒に取り組む意義を共有する対話機会(飲みニケーションのような酒の場ではない)を頻繁に設けることが有効であるそうです。
事実、最近では日本の中小企業でも「メンター制度」や「世代間ワークショップ」を導入して、相互理解を深めようという試みが増えています。こうした制度の活用や互いの価値観や仕事観を尊重しつつ、コミュニケーションを図りながら組織の競争力を向上させていくことこそが成長軸になると言えるでしょう。

■記事公開日:2025/04/28
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock