シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

第14回 固定観念にとらわれず全体最適を追求する

人は誰しも、年齢を重ねるとともに思考が硬直化してゆきます。
若いうちは、新しい考え方や技術に順応できる柔軟性がありますが、
歳をとるにつれて、これまでの経験則や成功体験にとらわれて
新しい視点や発想を受け入れがたくなります。

何かに取り組む上で、自分なりの尺度を持っているのは悪いことではありません。
ただ、ビジネスの様式やモノの価値感が多様化する今の時代は、
自分の尺度、いわば"固定観念"が邪魔になることが少なくありません。

現在の市場は、常に新しい発想を求めています。しかし、
古い尺度で物事を考えていては、市場が納得するアイディアは生まれてきません。
こうした状況から脱却する取り組みが、マーケティング思考の導入です。
ただ、マーケティング思考も教科書通りの視点では、もはや
今のビジネスのスピード感にはついてゆけません。
そこで今回は、「脱・固定観念」について考えてみたいと思います。

机上のセオリーを疑え

マーケティングを学び始めた方が、比較的早い段階で出会う言葉に、Segmentation(市場細分化)/Targeting(目標設定)/Positioning(戦略的位置づけ)があります。一般的にはその頭文字をとって"S・T・Pフレーム"と言われています。これは、顧客を細かく分類して、そこから自社が取り込みたい顧客を決め、競争上の差別化ポイントを明確にするという、マーケティングの基本的なセオリーです。おそらくビジネススクールなどでは「この手順を踏めばあらゆるテーマに対して差別的な優位性を獲得することができる。マーケティングにおいては"何よりも重要"なこと」と教えられることでしょう。

ビジネススクールの講師に喧嘩を売るわけではありませんが、私の考えは違います。S・T・Pフレームは情報整理をおこなう上では有益ですが、優位性を見出すほどの差別化はおこなえません。むしろここにとらわれると、どのようなテーマに対しても似たような発想しかできなくなってしまいます。
また、まずは何より細分化が大事で、分類する項目は、性別・年齢・職業等で分けて考える。確かに、こうした段取りを踏めば、何となくマーケティング的に思考を働かせている気分になるかも知れません。細分化することは作業の効率性を高めることになりますが、それは「部分最適」の追求です。マーケティングで必要なことは、向き合う企業が市場の中でいかに動いてゆくべきかという「全体最適」を考えることです。

固定観念の奴隷になっていないか

もう少し分かりやすく説明するために、私たちの日常生活に置き換えて考えてみましょう。たとえば食事です。「パンを食べるのは朝食が適していて、夕食に食べるのは不自然だ」と言う人がいます。なぜでしょう?決してそんなルールがあるわけではありません。むしろ、シチューやカレーと一緒にパンを食べると案外美味しいものです。つまり《朝食=パン:夕食=米飯》、この図式には根拠があるわけではなく、古くからの慣習や個人の習慣から"なんとなくそう思い込んでいる"だけのことなのです。こうした固定観念にとらわれていると、決まりきった食生活から脱皮できず、少しだけ人生を損することにもなります。

「とらわれる」を漢字で書くと「囚われる」になります。字が表す通り、人が枠組みの中に囲い込まれています。この字の正確な語源は承知していませんが、推測するに、人の気持ちが「こうあらねばならない」という"固定観念の奴隷"になった状態を示しているようにも思えます。ここから解放されなければ、決して人は幸せになれないし、当然ながらビジネスにおいても、自由かつ斬新な発想などは期待できません。

現地に出向き新しい価値観に触れる

固定観念にとらわれず、自由に発想できるようになるためには"実感値"を高めることが大事です。実感値とは、実際に現地に通いつめて現場の人と話したり、セミナーやワークショップを通して少しずつ対話を積み重ねてゆくなど、現場から得られる空気感や人間観に他なりません。そしてそれは、私がマーケティングスタッフとして企業のお手伝いをする上でのポリシーでもあります。

現地に通う、或いは当事者たちととことん話しをしてみる。すると、オフィスにいて資料を読んでいるだけでは到底知りえない事実が見えてきたり、新しい価値観に触れることがあるものです。それらを、自分の尺度で切り捨てるようなことはせず、一旦全てを自分の中に取り込んで、そこにどんな意味や主張があるのかを考えてみることが大事です。そんな作業を繰り返しながら実感値を高め、たゆまず自分を更新してゆくことが、年齢を重ねても固定観念にとらわれずに今を生き抜くスキルになるのです。

清野裕司のmarketing eye

"自由に発想するためには"実感値"を高めることが大事です"

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2020/04/27
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=PIXTA

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