シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

ビジネスパーソンの「のうりょく」を考える

  最近は書店で「能力」や「脳力」に関する書物を多く見かけます。この似て非なる2つの言葉にはどのような違いがあるのか。もともと「脳力」は造語なので「違いも何もない」と言われてしまえばそれまでですが、これらの言葉はマーケティングの指向性や、ビジネスパーソンとしての資質を考える上で非常に大きな意味を持つと私は考えています。
 マーケットの調査・分析や、商品企画、販売戦略、広告・ブランディングの方向性策定まで、一連のプロセスを担うマーケティングは、売り上げや企業の成長を左右するプロセスです。しかしそこで考慮すべきはアプローチの方法です。「能力」を駆使して物事を考えるのか、或いは、「脳力」で考えるのかでアプローチの仕方やその後の成果は変わります。今回は、ビジネスパーソンの能力と脳力について考察します。

能力型マーケティングの限界

 ある現象や事象を見て、なぜそのようなことが起きるのか、本当にあり得ることなのかを考えることがマーケティングの土台です。そこで多くの場合は、自分の体験と照らし合わせながらパターンに当てはめて答えを導こうとします。ところが、これまでに体験したことのない現象や事象を前にすると途方に暮れてしまう。ここが能力型マーケティングの限界です。一方、さらに深く考えを巡らせた結果、未体験のことであっても解決の糸口が見つかることがあります。その背景には、自らの体験に基づく知識を応用する"能力"ではなく、まだ見ぬものの正体を突き止めたいという欲求を動因とした"脳力"が働いているのです。

非効率の中から仕事を生み出す力

 長くマーケティング・ビジネスの世界に身を置いていると様々なテーマに出会います。そこで度々聞かれるのが「これまでに同じようなテーマの仕事を手掛けたことがありますか?」という質問です。クライアントにしてみれば、「似たようなテーマの実績があるマーケターなら安心して任せられる」という思いがあるのでしょうが、本来マーケターに求められる(期待される)ものは、過去の体験を紐解いてパターン化する技術ではなく、未知なるテーマに果敢に挑み、脳に汗をかき、新しいものを生み出す強い思いと努力に他なりません。これは、マーケターのみならず全てのビジネスパーソンに言えることです。
 言うなれば、能力は効率的に仕事を推し進める力であり、脳力は非効率の中から仕事を生み出す力と言えるでしょう。また、能力は感情を伴わなくても発揮できますが、脳力は強い気持ちがなければ発揮できません。

批評されると熱が冷めてしまう若手

 1年に数回実施されるマーケティング・ワークショップでは、多くの若手ビジネスパーソンと出会う機会を得ます。会社も分野も様々で、それだけに新鮮さがあり、普段はあまり聞くことのない言葉も耳にします。私のワークショップは新市場の開発計画や経営の仕組みづくりが主なカリキュラムです。過去のモデルにこだわることなく新しいスタイルの企画を提案していただくわけですが、魅力的な企画ばかりというわけではありません。しかし、未完成の企画でも発案者の強い思い入れ次第で評価が変わることがあります。

 最近私は、ある新事業案件を提案した若手の「為せば成る」というひと言に心を動かされました。企画内容自体は粗削りで随所に穴が見受けられましたが、久しぶりに聞いたそのひと言で、「もう少し成り行きを見守ってみようか」という気持ちになりました。
 近ごろは、自分の企画を批評されると途端に熱が冷めてしまう若手が多くなっているように思います。今ひとつ力強さが感じられません。そうした中、「為せば成る」という言葉には強い意志が感じられました。もちろん闇雲に進むのは無謀です。しかしながら、「評論せずにまずやってみる」、「不作為はビジネスでは許されない行為」といったことを再認識できたのは、その若手の脳力に導かれたおかげと言えるでしょう。

清野裕司のmarketing eye

未完成の企画でも、発案者の思い入れ(脳力)次第で
人の気持ちは動きます。

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2022/05/16
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=Adobe Stock

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