シリーズ清野裕司の談話室Vol.2 シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

シリーズ清野裕司の談話室Vol.2

求められているのは、こなす力より取り組む姿勢

近ごろの"意識高い系ビジネスマン"は、ライフスタイルへのこだわりが非常に強いように思います。ライフスタイルとは、仕事もプライベートも含めたもので、そこで彼らと議論になるのが、「仕事は質を重視すべきか、量を重視すべきか」ということです。

「清野さん、質より量で仕事一辺倒の時代はそろそろ終わりにして、生活にゆとりを持たなきゃダメですよ」と彼らは主張するわけです。もちろんそれも一理ありますが、もろ手を挙げて賛成できません。なぜなら、質の高い仕事をして生産性を高めることができるようになるためには、数多くの仕事に向き合う必要があると私は考えているからです。

ただそこで肝心なのは、「こうやれば良い」という道筋が見えている「こなし仕事」の量産ではなく、従来のやり方では成果が期待できない課題に対して「果敢に取り組む姿勢」です。いずれにしても、若いうちは「質より量」。腹一杯に仕事をすることこそがビジネスマンの血肉になることは間違いありません。

こなす力を高めても評価されない

どのような分野にも当てはまることですが、仕事には「こなす」ものと「取り組む」ものの2つがあると私は考えています。

慣れ親しんだ仕事は、素早く手際よく「こなしてしまおう」という意識が働きがちです。例えば、「今日中に伝票整理を終わらせなくてはならない」、「午前中に書類のコピーを100セット準備しなければならない」などといった仕事です。そこには効率が求められていて、特別な創意工夫は要求されません。むしろ、これまで正しいとされてきたやり方を淡々と「こなす」ことが良い仕事のやり方であり、そうした仕事も少なくありませんでした。

ところが近年は、一日中伝票整理に時間を費やしたり、午前中をコピー取りで終わらせるようなことは少なくなっていて、いくらこなす力を高めてもさほど評価されなくなりました。それに代わって増えているのが、「取り組む姿勢」が求められる仕事です。
取り組む姿勢とは、言われたことを決められた通りにこなすだけではなく、自分なりの付加価値をつけることを意識して、依頼者(上司や顧客)が満足できるようなアウトプットを生み出そうとする働き方です。もちろんマニュアルがあるわけでもなく、先人たちが教えてくれるわけでもありません。自分自身で仕事の進め方を主体的に生み出していかなくてはなりません。

そこで大事なことが、組織や自分の中に根付いている「アジェンダ」を見直すことです。ここで言う「アジェンダの見直し」とは、「従来の仕事のやり方をモデルチェンジする」ということです。そうした視点で仕事を見直してみれば、乗り越えるべき壁や、そのために取り組むべき課題がいかに多いかに気付くはずです。

徹底的に仕事のスピードを追求する

特に若いうちは、「こなす」から「取り組む」に仕事のやり方をモデルチェンジすることが大事だと私は思っています。そこで同時に実践したいのが、徹底的に仕事のスピードを追求して、できるだけ多くの仕事に向き合うことです。なぜならスピードを体得すれば、質にも量にも転換することができるようになるからです。限られた時間の中で多くの仕事に向き合うビジネスマンにとって、「仕事のスピードを上げる」ことは成果を出す上で極めて重要な要素になります。

仕事が早い人は、さまざまな業務が集中しても焦ることなく、優先順位の高いものから着実に取り組んでいきます。締め切りが早いものと重要性の高いもの、この2軸から優先順位をつけていくため、手際よく仕事を捌いていくことができるのです。効率的に仕事を進めることで、残業が減り、意識高い系ビジネスマンが主張する"プライベートの充実"にも繋がるわけです。
逆に、「仕事が遅い人」を見ていると、手がける優先順位や、仕事の要点を見極めることが苦手なため、成果とは関係ない部分にこだわり過ぎて、不必要に時間を費やす傾向があります。結果、残業を強いられたり、締め切りに間に合わなかったり。そればかりか、依頼者に迷惑をかけることにもなり兼ねません。

「そつなくこなす」は褒め言葉ではない

日本のビジネス界を代表するリーダー稲盛和夫さんは、より良い仕事をするためのフィロソフィーの中で、「どのような分野であっても、すばらしい成果を見出すまでには地味な努力の一歩一歩の積み重ねが必要」と述べています。それを私なりに具象化して表現するなら、「若いうちから仕事をこなすことに慣れてはいけない」ということになります。また管理者は、そうならぬよう若手を導くことが大事です。

よく「そつなくこなす」という言葉を誉め言葉として使う人がいますが、これは、必ずしも褒め言葉ではありません。そつなくこなすは、「言われたことは過不足なくできる」という意味ですが、その言葉の中には「大きな成果は期待できないけれど、何でも無難にやることができる」といった"平均点人材"を指すニュアンスが含まれています。そこに甘んじていては成長がありません。ただ一方で、自分らしさを発揮しようと時間をかけて仕事に取り組むのも独りよがりです。なぜなら、オリジナリティは相応の経験を積まずして発揮することができないからです。

仕事のやり方をモデルチェンジすることは大事ですが、その前提となるのはスピードです。私が知る仕事ができる人は皆、「取り組む仕事とスピード」この二律背反するテーマを同時に実現させています。

清野裕司のmarketing eye

オリジナリティは経験を積まずして発揮することができません。

Yuji Seino
清野裕司


1947年生まれ。1970年慶應義塾大学商学部卒業マーケティングを専攻 。商社、メーカーにてマーケティングを担当し、1981年(株)マップスを創設。現在、同社の代表取締役。マーケティング戦略の立案、商品・店舗の開発支援、営業体制の整備、ブランド開発、スタッフ養成の研修まで、業種業界を超えたマーケティング・プランナーとして、2500種類のプロジェクト実績。

株式会社マップス ホームページ:http://www.mapscom.co.jp

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■記事公開日:2022/08/04
▼構成=編集部 ▼文=清野裕司 ▼画像素材=Adobe Stock

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