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Vol.13過干渉上司の心理と付き合い方


 部下に指示を出しつつ仕事を取りまとめていく役回りは、正確を期するといった点においては心配性な人の方が相応しいとも考えられます。ただ心配性にも限度があります。自分の指示通りに動いているか、間違った方向に進んでいないかが気になって、何度も確認してしまう。部下に仕事を任せきれず、つい首を突っ込んでしまう。こうした人は立派な過干渉上司と言えるでしょう。
 さらに厄介なのは、業務時間内のみならず、プライベートな時間にまで踏み込んで部下にアドバイスを与えようとする上司。ストレスが蓄積して「このままではとても会社には居られない」と悲鳴を上げる若手も少なくないそうです。
 今回は、過干渉上司の心理と付き合い方について、40万部の大ベストセラー『言いかえ図鑑』の著者であり、多くのマスメディアでも活躍される公認心理師、大野萌子先生にアドバイスをしていただきました。

過干渉上司3つのタイプ

 過干渉上司には大きく分けて3つのタイプがあります。
 1つ目は、良かれと思ってお節介な言動をする上司。「困っているだろうから」という思い込みがベースにあって、「アドバイスするよ」と善意の押し売りをしてくるタイプです。部下にしてみれば別に困っているわけでもないし、話を聞いて欲しいわけでもない。とはいえ無下に断れるわけもなく、時には場所を居酒屋に移してズルズルと。コロナ禍ではリモートでアドバイスするお節介もいたようです。
 また、資格取得や社内エントリーなどの情報を仕入れて来て、しつこく勧めるお節介もいます。情報提供だけならまだしも、わざわざ教本を買ってきて渡すケースも。部下にしてみれば仕事が忙しくて時間がないのに、半ば強引に教本を押し付けられるのはストレス以外の何物でもありません。このタイプが厄介なのは、根底にあるのが"親切心"で、相手が迷惑していると考えない点です。

善意の押し売りは部下のストレスを増やす
部下は常に監視されているように感じメンタルに悪影響
 2つ目が、自分の承認欲求を満たそうとするタイプ。「任せるよ」と言ったのにしゃしゃり出てきて、「そこはこうじゃない」と引っ掻き回して去っていく。その結果、失敗すれば部下のせいにして、上手くいけば自分の手柄にしてしまう。こういった無責任なタイプの過干渉上司も案外多いように思います。
 3つ目は、部下の過干渉被害が最も多い、細かい事を把握しないと気が済まない上司。仕事の進捗状況などは全て把握していないと気が済まず、何度も同じことを確認します。特に厄介なのは、業務時間内の確認はもとより、夜中であれ休日であれ、思いついた時にメールが送られてくるケースです。「自分都合なので、気づいた時に見てくれればいいから。返信もいらないよ」などと言われても、部下にしてみれば常に上司から監視されているようでメンタルにも悪影響を及ぼす危険性があります。

過干渉上司の心理とその背景

 3つの過干渉タイプはどれも、一見部下のことを考えているようで、本質的には自分の欲求を満たすことに重きが置かれています。部下がミスをしてそのとばっちりを受けたくない、自分の考え通りに仕事を進めて欲しい、だから必要以上に関りを持ってあらゆる面で部下を管理しておきたい。これは部下の指導において本来あるべき「支援」ではなく、「支配」に近い関係性です。
 近年、なぜこうした上司と部下の関係が顕在化しているのか。1つの要因として挙げられるのが、1993年以降の就職氷河期によってもたらされた人材の空洞化です。バブル経済が終わって景気は低迷。企業は長らく新入社員を採用しない時期がありました。その結果、現在の企業には40代の生え抜き管理職の数が圧倒的に少なく、多くの場合、若手の面倒を見ているのは50代の管理職というのが実情です。
 50代と20代と言えば、親と子ほどの開きがあります。これだけの差があれば、当然ながらスキルも経験値も、さらに言うなら価値観すらも違うはずです。そんな若手の仕事ぶりを見ていれば、あれこれ口出ししたくなるのは仕方ない部分もあります。しかし、human resource(人的資源)からhuman capital(人的資本)への転換が強く言われる昨今、過干渉上司の接し方は時代に逆行している感が否めません。

「支援」のつもりが「支配」になっている

過干渉上司がもたらす影響

 信用されていない、任せてもらえないという思いが募ると、人はパフォーマンスが低下します。口出しされることに慣れてしまって自分で考えようとしなくなり、その結果、指示待ち人間をつくる原因にもなります。過干渉上司の存在は、人材育成を考える上で会社に大きな不利益を与えると思います。

「信・認・任」の方針で人材を育成する
 部下の成長を促すためには、「信(しん)・認(にん)・任(にん)」の3要素が欠かせません。読んで字のごとく、信じる、認める、任せるといった意味ですが、そもそも過干渉上司は部下のことを信用していません。信用していないということは認めていないということですし、任せた仕事に口を出すというのは任せていないのと同じことです。つまり、過干渉上司は人を育てる3要素のどれ1つとしてカバーできていません。
 ただ諸刃の剣という側面もあって、自分から能動的に働きかけはしないものの、言われたことは丁寧にこなすという人もいます。事務能力といった側面を考えれば、それはそれで会社にとっての戦力です。そうした人の中には、「任せたから自由にやってみて」という主体性重視の上司よりも、あれやこれやと鬱陶しいけれど、指示が得られる過干渉上司の方が仕事がしやすいという人もいます。ただ、良い上司・悪い上司で分けるなら、過干渉上司は悪い上司に属すると思います。なぜなら部下と言えども相手は大人です。過剰なサポートは必要ありません。にも関わらず必要以上に干渉するのは、子ども扱いしているようなもの。そうした上司の下ではいつまでたっても人は育ちません。

過干渉上司との付き合い方

 過干渉上司と上手く付き合っていくためには、干渉される前に部下の方から歩み寄り、上司の自尊心を満たすことが最良の手立てと言えるでしょう。ここで言う自尊心とは、「自分は役立っている」という納得感のことです。
 例えば、先に紹介した"細かい事まで把握したい上司"に対しては、報告すべきことが何もなくても、必ず毎朝、自分の方から状況説明することを習慣づけてください。さらにそこで、「進捗については午後一番でこちらから報告しますので」と伝えておくと良いでしょう。そうすれば途中で状況を聞かれても、「午後一に報告します」のひと言で干渉をシャットアウトできますし、上司の方も「ああ、そうだったね」と納得するはず。部下の方から「積極的に関わろう」という態度を示せば上司の自尊心は満たされます。
 ここで一つ肝に銘じていただきたいのは、余計な情報を与えないことが大事です。細かい事まで把握したい上司は、人の言葉尻に過敏に反応するため迂闊なことを言ってはいけません。例えば、午後一番の進捗報告時に、「先ほど○○役員から"期待しているよ"と声をかけていただきました」などと口を滑らせようものなら、上司の干渉はこれまで以上に厳しくなるはずです。したがって、こうした人には必要最低限のボキャブラリーで先手を打って報告するだけ。それを心がけてください。

部下のほうから積極的に関わること

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

 隅から隅までというわけではありませんが、私自身細かいところが気になるタイプですし、それを指摘したくなることもあります。また、経験値や成功体験を持つ人が気づいたことをアドバイスするのは悪いこととは思いませんし、基本的なコミュ二ケーションの1つだとも考えています。しかしながら、働き方が多様化している現代は、これまで善しとされてきた部下との関わり方が否定されつつあるのも事実です。要は、言い方の問題なのだろうと思います。例えば、「あなたのためなんだよ」とか「今やっておかないと後々苦労するよ」、「そうした部分に気づかないとまずいよ」など、上から目線の物言いに若手はウンザリしています。部下が上司に従うのは、立場が上だからではなく尊敬できるからです。そうした気持ちを推し量れず、必要以上に干渉してくる上司はただ鬱陶しいだけの存在のようです。
 とはいうものの、多くの場合上司の干渉は、部下の仕事ぶりに不安を感じるからに他なりません。だからこそ細かく確認し、アドバイスもしたくなる。それを若手はただ鬱陶しいと捉えて現状を変えようとしない。そうした負のスパイラルに巻き込まれているケースが多いようにも感じます。干渉する上司とされる部下、互いに改めるべき点がないか否か、今一度冷静に考えてみるべきかも知れません。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
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■記事公開日:2022/06/28 ■記事取材日: 2021/06/11 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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