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ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.15打たれ弱い若手社員と、どう向き合うか。


 2002年にSMAPが歌って大ヒットした『世界に一つだけの花』。「ナンバーワンよりオンリーワン」という歌詞が、弱者を切り捨てる成果主義、競争主義からの脱却と解釈され、若い世代を中心に支持されました。そうした一方で、管理職世代からは「ナンバーワンを目指さないのは現実逃避ではないか」と異を唱える声も。他者と競ったり、衝突したりするのを嫌う若い世代の「打たれ弱さ」と結び付けて批判的な解釈が成されることもしばしばです。
 終身雇用制度が崩れつつある現代は、若者の意識が"個"に向かう傾向にあります。「チームのためにがむしゃらにやる」「成果を出して高い地位や収入を得る」などというのはナンセンス。多くのプライズを求めることもなく、自分に出来ることを出来る範囲でやれば十分と考えていて、同期より一歩抜きんでて出世してやろう!という威勢のいい若者は明らかに少ないようです。そんな現状にあって、会社や上司は、打たれ弱い若手社員とどうコミュニケートして行けばいいのか。公認心理師の大野萌子先生にお聞きしました。

そもそも若者には欲がないのか

 若者に欲がないかと言えば、必ずしもそうではありません。欲望の有無はその人の価値観によって異なります。例えば、組織における出世やそれに伴う高級時計やクルマなどに対する欲は確かになくなっているように思います。原因の1つはロールモデルの欠如です。偉くなっても負担が増えるばかりで、さっぱり給料が上がらない。だったら、名ばかりの役職なんて欲しくないと考えるのは不自然なことではありません。つまり、欲をかきたくても魅力を感じられないのが今の社会の現状です。
 そうした一方で、アイドルの"推し活"のために生活費を削って大金をつぎ込んだり、SNSで「いいね」欲しさに整形するような人すらいる。つまり、誰しもコミュニティの中で「誰かのために貢献したい」とか「認めてもらいたい」という欲求はあるのです。ただそのコミュニティは職場ではない。彼ら彼女らにとっての職場は軍資金を調達するための場に過ぎないのです。もちろんこれは1つの傾向であって、すべての若者に当てはまるわけではありません。ただ、明らかに価値観が変わってきていることを理解しないと、若い世代の方々と、がむしゃらに仕事をしてきた管理職世代の溝を埋めることは難しいように思います。
明らかに価値観が変わってきている

打たれ弱い部下との接し方

どこで話すかを相手に選択させることが鉄則
 部下が打たれ弱い場合、上司はそれを考慮した接し方をしなくてはなりません。まるで腫れ物に触るような接し方を続けていると、どんどん溝が深まり、コミュニケーションそのものが成立しなくなってしまう。そうした状況に陥る前に対策を講じる必要があります。
 例えば、少し強い口調で注意をされただけで、貝のように押し黙ってしまったり、メソメソと泣き出したり。社会人としてどうなの? という本質的な問題は別として、そうした人の思いや考えを確認する場を持つことが必要です。黙り込んでいる理由は何なのか、何に対する涙なのか、悔しいのか、悲しいのか、怖いのか、そうしたことを詳らかにすることが、打たれ弱い人と接するための第一歩になります。
 黙り込まれても、泣かれても、言うべきことは言う、聞くべきことは聞く。こうしたスタンスで接することは大切ですが、この時、「じゃあ、会議室で話そう」などと言ってはいけません。中には、「上司と二人きりになりたくない」という人が一定数いて、そうした人を別室に呼ぶとハラスメントを主張され兼ねません。ですので、二人で話をする場合は、今ここで話していいのか、それとも場所を移す方が良いのかを相手に選択させることが鉄則。今の時代、これは非常に大事なコミュニケーションプロセスになります。

打たれ弱い人に対するNGワード

 上司が仕事に評価を加えたり、部下を裁定する場合は、非難、批判、否定、比較などの要素が入る言葉を使わないようにしましょう。それでも頻繁に聞こえてくるのが"他人との比較"です。
 あるニュースサイトの調査(全国20〜60代の働く男女1,537名を対象に実施)によると、「自分と他人を比べて落ち込むことがある」と答えた人は全体の45.2%にも及びました。ただしこれはセルフアセスメントの結果で、会社の上司から比較されるような物言いをされた場合は、より深い痛手を負ったり、不信感を抱く人が増えることは間違いありません。
 例えば、「〇〇さんは1週間で仕上げてくれたから、1週間あれば大丈夫だよね」という仕事の頼み方をする人がいます。こうした場合は余計な前置きは必要なく「1週間でお願いね」とだけ言えばいい。わざわざ「○○さん」の成果を引き合いに出す必要はありません。「こちらから期日を切るのは一方的ではないか」と気になるのなら、「難しそうなら相談してね」とフォローの言葉を添えればいいと思います。
 さらによくありがちなNGワードが、「それ、急ぎの仕事じゃないでしょ。こっちから先にやって」というもの。この場合は、「ごめんね。これ急ぎなので、こっちから先にお願いできるかな」と言えば相手も傷つかないし、角も立ちません。非難も比較も否定も一緒です。自分の思い込みで、相手の脳力や仕事の手際などを決めつけた物言いは全てNGです。悪気はなくても、受け手の解釈はあなたと同じではありません。

"他人との比較"はNG

打たれ弱さは先天的なものなのか

 打たれ弱さは先天的なものではなく、職場環境や人間関係などの後天的な要素が多分に影響していると思います。学生時代は溌剌としていて、とても優秀だった人が、社会人になってストレスに押しつぶされ、心身ともに疲弊してしまうケースが少なくありません。そのベースには性格傾向があると思いますが、それが開花するか否かは、置かれた環境や、接してきた人間関係次第だと思います。

溌剌としていた人も打たれ弱さが醸成されていく
 
 例えば、積極的なコミュニケーションが不得手な人が頑張って自己主張をしたところ、真っ向から否定されたり、「なんでも相談しろよ」と言われて相談したら「そのくらい自分で考えろよ」とけんもほろろな態度を取られたり。こうしたことが続くと、溌剌としていた人でも次第に打たれ弱さが醸成されていきます。
 また一方で、土台となる性格傾向については、親子関係がファクターになっているケースが多く、成長過程で親子関係が上手く行っていなかった人は、打たれ弱くなるアベレージが高いように思います。事実、カウンセリングをしていると、40代、50代になっても親の呪縛が解かれず、母親にこんなことを言われた、兄弟で比べられるのがプレッシャーだった、などとおっしゃる方が驚くほど大勢いらっしゃいます。

打たれ弱さを克服するためには

 打たれ弱さを自覚していて、それを克服したいと思っているのなら、多少の傷心は覚悟して "対話の場数"を踏むことに尽きると思います。コミュニケーションスキルの向上は、知識やテクニックの蓄積ではなくトレーニング次第。実践あるのみ、というのが私の持論です。

 カラダを鍛えるトレーニングと一緒です。本を読んで筋力をつける知識を詰め込んでも、カラダに変化は起きません。同じように、コミュニケーションスキルも実践しなければ鍛えることはできません。より多く実践すればどんどん鍛えていくことができ、打たれ弱さは次第に克服されていくはずです。
 社会に出れば、人と人との軋轢は必ずあるしトラブルもある。落ち込むこととか腹が立つこと、嫌なことや悲しいことは沢山あるのが普通です。そうした現実から逃げていると傷つくことへの耐性が付きません。打たれ弱い人というのは、傷つきたくないので人との交わりを避ける傾向にあります。しかしながら、それを続けていると益々疑心暗鬼になって、いつまで経ってもコミュニケーションスキルは向上しません。
 対話の実践にあたっては、わざわざ『話し方講座』などに通う必要はないと思います。大事なことは、勇気を出して積極的に人と関わって、対話する場を自らつくること。打たれ弱さの克服はここからです。
コミュニケーションスキルの向上は実践あるのみ

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

 コロナ禍で人間関係が希薄になった近年は傷ついている人が多いと思います。頻繁に顔を合わせていれば少々のことがあっても気にならないけれど、会う機会が減ると不協和音が生じて、傷ついたり、傷つけたりすることが多くなります。まさに今はそうした時期です。それに輪をかけて、精神的な居場所を持たない人がとても多いのです。
 例えば、家に帰って「こんなことがあったよ」と話すだけでも頭が整理されて、もやもやした気持ちが解放されることがあります。ところが今の日本は一人世帯が最も多く、家に帰っても話す相手がいません。或いは、家族がいても皆仕事を持っているのですれ違いが多い。話し相手はSNSの中にいる人だけで、安心して話せるライブな場所がありません。その結果、若手社員のみならず、傷ついた状態がずっと続いていて、「自分は打たれ弱い」と思い込んでいる人が多いようです。いかがでしょう。皆さんは最近、心を開いて話をしたことがありますか?電話の雑談でも構わないので、ぜひそんな時間を設けてください。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
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■記事公開日:2022/10/19 ■記事取材日: 2022/10/07 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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