ビジネスマンのメンタルヘルス ビジネスマンのメンタルヘルス

ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.22近ごろ耳にする「スルースキル」ってなんだ?

ビジネパーソンにとって大きなストレス因子になるのが「職場での人間関係」です。中でも、上司や顧客との関係は悩みの種になることが多いようです。これだけパワハラが言われる時代になっても、強い言葉で叱責されたり、おもむろに不愉快な態度を示されたりすることはまだまだあります。そんな言葉や態度を全て真正面から受け止めていると、ストレスが溜まりすぎて仕事だけでなく日々の生活に支障をきたすことにもなり兼ねません。そうした状況を回避する1つの手段が、自分に対する批判的な意見や状況を受け流す「スルースキル」を身に付けることだと言われています。確かに人から批判されるのは気持ちの良いものではありません。ただ、そうした意見の中にも気づきや学びは少なくありません。そんな機会を簡単に受け流してしまって良いのか......公認心理師・産業カウンセラーの大野萌子先生にお聞きしました。

1.言いたいヤツには言わせておけばいい

日本人気質の特徴に、生真面目さや繊細さがあります。それは決して悪い事ではありませんが、「気にし過ぎる」傾向があるのもまた日本人ならではの気質といえるでしょう。物事に敏感過ぎると、いろんなことを考えて心身が疲弊します。しかしながら今の社会は、ひとりで多くのことをこなさなければならなかったり、情報や刺激が多すぎて、「メンタルタフネス」ということを考えると、ある程度は物事に動じない心を持つことは必要でしょう。
昨今はその手段として「受け流す術」いわゆる「スルースキル」がクローズアップされています。その背景にあるのは社会における「寛容さ」の欠如です。職場におけるハラスメントやネット叩きや炎上もそうですが、「何を言っても批判されたり、誹謗中傷されるのだから、言いたいヤツには言わせておいて無視すればいい」といった部分と連動しているように思います。
いま「スルースキル」が注目されている

2.鈍感力を持っている人と鈍感な人は違う

困難に背を向け続けていると鈍感な人になる
遡ること2007年に、作家の渡辺淳一氏が『鈍感力』という本を世に送り出し大きな話題になりました。医師としてのキャリアをベースとして、些細なことで揺るがない「鈍さ」こそが生きていく上で大切であると説いたミリオンセラーです。以降、「鈍感力」という言葉がさまざまな場面で使われるようになり、ビジネスシーンでも「鈍感力を鍛えるノウハウ」が語られるようになりました。いわばこれが現在言われるスルースキルの土台になる考え方と言えるでしょう。
鈍感力の高い人とは、ストレスマネジメントに必要なスキルを持ち合わせており、鈍感力を「発揮する場面としない場面の切り替え」が自在にできる人です。一方中には、正真正銘の「鈍感な人」がいて、そういう人は他人の言動に傷つくことが少ない反面、危険察知能力が退化していて危うさが感じられます。
人間は、本当の危険や困難に直面したり、受け入れがたい苦痛を感じた場合は「防衛機制」というメカニズムが働いてそれらを遮断することができます。しかし、常日頃から面倒なことや困難なことに対して「見ない、聞かない、忘れてしまおう」といったスタンスでいると、やがてそれが当たり前になって本当に鈍感な人になってしまいます。「スルースキル」もまさに同じで、困難や不都合から目を背けることが習慣になると、「ここ一番!」という時に力が発揮できず、ただ立ち尽くすだけということにもなり兼ねません。

3.打たれ強い社員を育むオフィス環境

個人的には「スルースキル」という言葉には、やや違和感があります。むしろ「打たれ強さ」という表現の方がしっくりきます。このコラムのVol.20 『情報過多がもたらす脳疲労』でも触れましたが、心をボールに例えて、そのボールが弾力性に優れた柔らかなものであれば衝撃を受けてもすぐ戻ります。この"柔軟性"こそが打たれ強さであり、今回のテーマであるスルースキルの本質だと私は思います。
また、打たれ強い人は「対外的な顔」をつくる"心のゆとり"を持っていて、いかなる時でも表情や態度が大きく変わることはありません。逆に打たれ弱い人は気持ちにゆとりがないため、感情が顔や態度にそのまま出てしまいます。そうした部分を考えても、やはりスルースキルを高めること(或いは打たれ強くあること)はとても大事で、人間関係でいらぬ軋轢を生まないことにもつながります。
最近は、そのような職場づくりを目指してオフィスの在り方を見直す企業も増えています。気持ちを安定的に保つには「精神的な居場所」が必要です。
これからのオフィスは、単に自分のデスクがある場所ではなく、コミュニケーションが活性化され人間関係が健やかに保たれるような工夫があって、存在価値を自分で見出せるような空間になっていくと思います。
オフィスは精神的な拠り所になりつつある
そうした中から「この人のために役立ちたい」とか「この会社のために頑張ろう」というエンゲージメントが生まれてくるのです。近年はテレワークの普及によって働き方の自由度が高まっていますが、精神的な拠り所として"オフィスの存在"はこれまで以上に重要なものになっていくのではないでしょうか。

4.どれだけのめり込めるか、続けられるか

ビジネスパーソンでもアスリートでも、飛びぬけて優れた人は総じて打たれ強さを持っています。先天的にそのような才能の持ち主もいますが、その才能を伸ばして確固たる「自分軸」を築くためには努力と継続が必要です。その条件となるのが、自分の仕事にどれだけのめり込めるかです。
努力を続けて「自分軸」を確立する
メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手などはその象徴ではないでしょうか。野球を突き詰めて、自信や信念があるからこそ打たれ強く、逆境にあっても顔色一つ変えずに結果を残し続けられるのだと思います。ただそのためには人が10回で済ませるところを100回、200回やっている。人と同じことをやっていてもダメで、人より数倍、数十倍の努力をして、それを継続することが大前提になります。そうすることで自信がつき、自分軸が確立されるのです。また、常に努力している人に対しては、「あの人っていつも一生懸命だよね」と、周囲の見る目も違ってくるもの。やり続けられることは大きな才能の1つです。
私はカウンセリングで、「仕事を辞めたい」という相談を度々受けることがありますが、転職がクセになっている人がいます。何処に行っても嫌なことはあるし、苦手なタイプの人はいるものです。完璧な職場などないわけですから「ここで腰を据えて頑張ってみよう!」と腹を決めることも必要。物事は継続しないと自分から動ける立場にはなりませんし、発言にも説得力が生まれません。それが組織だと私は思います。

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

若い頃は気になっていたことが今は全然気にならないということもありますし、自分に余裕がないと些細なことでも指摘されると気になって、頭から離れなくなってしまうこともあります。つまり、自分軸が確立できているものについては他人から何を言われようと「ああ、そういう考え方もあるのね」という感じで受け流すことができます。ただ自信がないことや、あまりよく知らないことを指摘されると弱点を突かれたようで、気に病んでしまいがちです。つまり、経験を積むと自信が生まれ、それが自分自身を守るスルースキルにつながるのです。
ですから、また経験が足りていない若手の皆さんは、あえてスルースキルのようなものを身に付けない方がいいんじゃないかと思います。なぜなら、若いうちから困難な状況や他人からの指摘に目を背けるクセがついてしまうと人は成長しないから。今さらながらに根性論を持ち出すわけではありませんが、厳しい状況でも、そこで踏ん張って乗り切ろうとしないと身に付かないことはたくさんあります。スルーするのではなく、受け止めて咀嚼することが大切で、ある一定のところまでは我慢しないとその先はない。もちろん、なんでもかんでも我慢して続ければいいわけではなく、理不尽なものを判別する冷静さは必要です。
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■記事公開日:2024/04/30 ■記事取材日: 2024/03/28 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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