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ビジネスマンのメンタルヘルス

Vol.5コロナ禍とリーダーシップ


「批判はあろうが、責任はすべて知事の私が負う」。これは2020年2月28日に北海道の鈴木直道知事が『緊急事態宣言』を発令した時の言葉です。当時の北海道は、新型コロナウイルスの感染者が突出していて、その理由については国及び専門家会議の見解も曖昧。そこで飛び出したのが、全国に先駆けた『緊急事態宣言』とこの言葉でした。この時はおそらく、「久しぶりにリーダーシップのある政治家が現れたぞ」と感じた方も少なくないと思います。
想定外の事態に見舞われた時は、これまで当たり前だと思っていた考え方や行動を見直す必要に迫られます。当然ながらそこには、混乱が起こったり、足並みが揃わなくなったり、メンタルがダウンしてしまう人も出てくるでしょう。そうした人々の意識に心を配り、寄り添いながら変化を促してゆくのが、リーダーが果たすべき役割です。今回はウィズコロナ、アフターコロナのニューノーマルな働き方において、期待されるリーダーシップとはどのようなものかを、産業カウンセラーの大野萌子先生にお聞きしました。

埋めるのは難しい?若手との溝

企業の新入社員カウンセリングで、「上司から飲みに誘われたらどう思うか」といった意識調査をしたところ、約8割の人たちが「行きたい」と答えました。これは、世間一般で言われる「上司と部下の溝」とはズレがあって意外でした。若者視点のネット情報には、『上司から誘われて関係を壊さず断るには』といった記事があふれていて、さまざまな断り方のテクニックが紹介されています。しかし、すでに折り合いの悪い上司がいる人は別として、それ以外は「誘われると嬉しい」というのが現実のようです。

ただし、大人数でワイワイやる酒の席には行きたくない。少人数で(できれば1対1で)自分の話しを聞いてもらえて、上司の話しも聞けるような飲み会なら、という条件があるところも共通していました。いずれにせよ、こと新入社員に限っては、日常業務の中で上司が何を考えていて、自分のことをどう見ているのかが気になっていて、自分からもアピールしたいことがある。世間が言うほど溝は深くないようです。
8割の若手が上司から「酒の席の誘われると嬉しい」

自己開示できて共感的であること

とはいえ、「若手の考えていることがどうしても理解できない」といった声が企業のチームリーダーの間から聞こえてきます。私自身、若手社員をカウンセリングしていると思考の違いを痛感し、呆気にとられることがままあります。とはいえ職場においては部下としてつけた以上、彼らからの信頼を得て、一刻も早く戦力になるようマネジメントするのがリーダーの仕事です。こうしたことを念頭に置くと、求められるリーダー像とは「上手に相互交流ができる人」ということができるでしょう。そしてそのためには、リーダー自身が自己開示できて共感的であることが条件になります。

また現場における実務的な要素としては、指示出しが明確であることもリーダーの振る舞いとしては大事です。「何を言われているか分からない」と思わせてはだめです。例えば、「任せたよ」とか「後でいいから」という指示の出し方はNG。後は後でも、今日の後なのか、週末でいいのか、自分の仕事がひと段落ついたらでいいのか。そういった曖昧さを、いちいち確認するのが若手にとってストレスなのです。そこで、「空気を読め」とか「流れで判断しろ」というのは、今の時代は通用しません。きちんと言葉にすることが必要です。昔の感覚でリーダーシップをはき違えていると、若手との信頼関係は築けません。
曖昧さは若手にストレスを与えるので指示は明確に

コロナ禍で求められるリーダーシップ

コロナでリーダーの在り方も変わりました。正しく言えば、基本的なスタンスは変わらないけれど、より"繊細さ"が求められるようになったと思います。たとえば、交代勤務などで顔を合わせる頻度が少なくなったり、リモートで繋がっている時間しか話ができなかったりと、今は、オフィスワークと比べて接触時間が極端に短くなっています。こうした状況においてリーダーには想像力が不可欠です。

コロナ禍か否かに関わらず、人の心の平穏は、自分が言っていることをどれだけ受け止めてもらえているかが非常に大きなポイントになります。特に今のように日々状況が変わり、先が見えない時期に、一人暮らしをしている若手社員の孤独と不安は計り知れません。こうした相手と接する場合は、少ない情報の中で想像力をフル回転させて、仕事のことだけではなく、お仕着せにならない程度に相手のプライベートまで踏み込んで、話をし、共感し、そしてさりげなく励ますことが大事です。

ウィズコロナのリーダーシップは、強引に引っ張ってゆく力よりも、聞く力、共感する力、想像する力が求められると思います。「いや、私はそうしたタイプじゃない」という人は、自分を変える努力が必要です。
リーダーには聞く力、共感する力、想像する力が必要

会話を重ねてメンタルリスクを早期発見

接点が持ちにくいこの時期のコミュニケーションは、上司からの積極的な声掛けが大事です。「相談がないから大丈夫だろう」で放っておくのが一番危険で、メンタル的なことで部下のほうから上司に相談しに来た時は、既に深刻な状況まで追い込まれているケースがほとんどです。電話でもリモートツールでも、どんな方法でもいいので、細やかに接する機会を設けて欲しいと思います。会話が途絶えるとメンタル不調に陥る人がこの先どんどん増えることが予想されます。このあたりは今のリーダーの大事な役割と言えるでしょう。

また会話の内容も、仕事の報告や連絡ばかりでなく、相手の気が紛れるような"雑談"を積極的に持ちかけて欲しいと思います。「どんなことを話せばいいか分からない」という人は、これを機会に、部下の人となりを念頭に置いて、想像するなり調査するなりして「分かろうとする」努力をしてください。その上で、相手が心を開くきっかけを与えて欲しいと思います。こうした配慮と歩み寄りの姿勢が今のリーダーには求められているし、細やかな会話の積み重ねこそが、メンタルリスクの早期発見に繋がるのです。
心を開くきっかけを与えるのがリーダーの役割

ゆとりがなければ繊細な接し方はできない

メンタルリスクは、リーダーにも同じように(或いはそれ以上に)あります。プレーヤーとして能力が高い人が、必ずしも良いリーダーになるかといえばそんなことはありません。往々にして優秀なプレーヤーほど「他人の力を借りる」という発想ができずに、あれもこれも自分一人で背負い込んでしまいがち。結果、常に忙しくて、部下の粗ばかりが目について負のスパイラルに巻き込まれています。ゆとりがなければ、人に対して繊細な接し方はできません。したがって、リーダー自身のストレス解消がとても重要です。

最近ですと、「ソロキャンプにハマっている」という話を複数の人から聞きました。自然に触れることはストレス発散にはもってこいで、「一人で過ごす」というあたりも今にピッタリの趣味だと思います。さらに、キャンプを始めれば、キャンプ用品のカタログを見たり、「次はどこに行こうか」と考えることも楽しくなる。つまり、1つ何か楽しみを見つければいろんな角度から気持ちを開放できるわけです。その一例がキャンプであって、ジョギングでもウクレレでも同じです。"自助"と言う言葉は好きではありませんが、こと、コロナ禍において心の健康を保つためには主体的な働きかけが欠かせません。

よくメンタルを労わるためには休息が大事と言われますが、カラダを休めて横になっているというイメージではなくて、もうちょっとアクティブなものとして捉えていただけると良いと思います。メンタルを守るためには、部屋に籠ってじっとしているのではなくて、ポジティブに休息することが何よりです。
ポジティブな休息で自身のメンタルを守る

Point産業カウンセラー・大野萌子さんからの
メッセージ

国のコロナ禍対応で、私たち日本人は1つ学習をしました。それは、「リーダーは早めの決断をすべし」ということです。どうなるか分からない状況が続くと、不安になる人や、迷惑をかける人がどんどん増えてゆきます。それを回避するには、変化に応じた早めの決断が必要です。また、「これは怪しいぞ」と思った時は、「自分で言い出したことだから後には引けない」などとつまらない意地を張っていないで、一刻も早く方向転換することで多くの人が救われます。傷が浅いうちに方向転換するのも能力の1つですし、決断力と柔軟性、これがリーダーの力量を計るポイントです。
とは言うものの、当事者になったらやはり悩むものです。私自身のことで恐縮ですが、年末に幾つかの忘年会やパーティーがありましたが、状況が状況だけに全てキャンセルさせていただきました。しかし、自分が声かけした集りだけは最後までキャンセルするのがはばかられ、大いに悩んで最終的にはキャンセルしました。自分から言い出したことを撤回するのが、いかに思い切りが必要かを実感した次第です。

取材協力:一般社団法人 日本メンタルアップ支援機構
東京都中央区銀座1-3-3 G1ビル7階
https://japan-mental-up.biz/
大野萌子先生の新著のご案内
よけいなひと言を 好かれるセリフに変える 言い換え図鑑
産業カウンセラーとして2万人以上にコミュニケーションの指導をされてきた大野萌子先生の新著が発売されました。「よけいなひと言」と「好かれるひと言」を15シーン・141例を挙げて紹介。人間関係がスムーズになる「言葉のかけ方」を著者ならでは視点で解説した一冊です。

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■記事公開日:2021/01/13 ■記事取材日: 2020/12/13 *記事内容は取材当日の情報です
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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