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Vol.27ネガティブな感情は悪いものではない

ストレスを感じやすい現代社会では、誰もが「ネガティブ感情」を抱えて生きています。心配や焦り、嫉妬や悔しさ、失望や孤独感など、感情のバリエーションを挙げればキリがありません。そして多くの人は「ネガティブ感情=悪いもの」だと思っているようですがそれは大きな誤解です。心に浮かぶネガティブな感情は決して悪いものではなく、その感情を「なくしたい」と考える必要はありません。
例えば、「明日のプレゼンは絶対に失敗できない。でも、自分の中でパーフェクトな提案ができるかどうかわからない」と心配になるのなら、改めて企画書を見直してブラッシュアップするなどにより良い準備ができます。つまり視点を変えれば、ネガティブ感情はビジネスを成功に導く「原動力」につなげることができるのです。そこで今回は「ネガティブ感情との付き合い方」を公認心理師・産業カウンセラー大野萌子先生にアドバイスをしていただきました。

人の感情には必ず両面がある

人の心にはポジティブとネガティブ、両方の感情が存在しています。いつも明るく、悩みがなさそうなポジティブな人でも人に話せない問題を抱えていることもありますし、ネガティブ思考になりやすい人でも1日の中でちょっとした嬉しい感情が生まれたりするものです。にもかかわらず、「私はストレスを感じることがありません」「怒ることなんてありません」などと言う人が時折います。もしそれが強がりや見せかけではないとしたら、その人は危険です。
例えば、周りから「優秀な人」と期待されていた新入社員が最初はバリバリ仕事をこなして成果を上げていたのに、半年後には心がポキッと折れて休みがちになり、ついには出社できなくなる。こうした状況に陥りやすい人こそ「いつもポジティブな人」の典型例です。
その原因として、「ネガティブ感情に気づけないほど心のセンサーが鈍感になっている」、もしくは「自分の気持ちにふたをして向き合ってこなかった」のいずれかが考えられます。
「今日も1日良いことばかりだった」ではなく、「悪いこともあったけど1つだけ良いことがあった」と現実を受け止められる人の方が実は幸福を感じやすいのです。ネガティブな気持ちになるのは「人間としてごく自然なこと」とまずは心にとめておきましょう。
人の心にはポジティブとネガティブ、両方の感情が存在する

適度なストレスがパフォーマンスを上げる

ストレスが低すぎると生活が無気力・無反応になっていく
過重労働やストレス過多な生活は心身に悪影響を及ぼしますが「適度なストレス」は人にとって良い効果をもたらします。それを表すのが「ヤーキーズ・ドットソンの法則」という生理心理学の基本とされる法則です。これは、パフォーマンスとストレスの関係を示した理論で「高すぎず・低すぎない」適度なストレスがある方が、最適なパフォーマンスにつながるという法則です。
ストレスは物理学用語で、モノに刺潡が加わったときのあらゆる反応」を意味するもので、これを「ストレス反応」と呼びます。例えば、柔らかいボールがあるとして、ボールを凹ませる力がストレッサー(刺激)、その刺澈に対する反発が「ストレス反応」です。ストレスが低すぎる状態とは、この刺激がまったくない状態を指します。
例えるなら、誰にも会わない、仕事もしない、何の予定もないといった状態です。これでは「変化に反応しない=柔軟性を育めない」ためパフォーマンスを発揮できないどころか、日々の生活が無気力・無反応になっていきます。結果として、さらに深いネガティブ感情へと沈み込んでいくことにもなり兼ねません。

ネガティブ感情を一旦受け止める

心にネガティブな感情が生まれたとき「これではダメだ」とその感情を否定する人は多いと思います。しかし本来、人の感情に「良し悪し」は存在しないというのが心理学の考え方にはあります。ではなぜ感情を良いものと悪いものとに分けて考えてしまうかというと、過去にあった悪い出来事に対する刷り込みが影響しているからです。
例えば「後ろ向きの発言はしてはいけない」「マイナスなことはできる限り考えない方が良い」といった教えや、自分の体験などにより、「ネガティブなことは感じてはいけない」と脳にインプットされているのです。しかし、メンタル不調が始まる1つのケースとして、このような感情の否定から「自己肯定感」が低くなってしまうことがあります。
本質的には、ポジティブ感情もネガティブ感情も湧き上がってくるのは自然なことで抑えられなくて当然です。したがって、それを自分で否定する必要もなければ、人から否定される不安を感じる必要もありません。自分の感情を事実として認識した上で、良し悪しを判断せずに「受け止める」ことが大切です。自然と湧き上がってくる感情に対して「悪いこと」「良いこと」と区別するのは今年からやめましょう。
良し悪しを判断せずに「受け止める」ことが大切

自分の気持ちがわからない人は感情にふたをしている

感情にふたをするとSNSで発言して炎上してしまうことも
私が行っているコミュニケーション研修には「喜怒哀楽」の4つの感情ごとに、最近の出来事を書いてもらうワークがあります。この研修を続けていく中で気づいたのは、長く自分の感情にふたをしてしまっている人ほどワークの記入ができないということです。その理由は明確で、自分の感情に向き合わず、見て見ぬふりをし続けてしまっていたからです。また、「仕事が嫌い」「上司がイヤ」「なんとなくモヤモヤ、イライラする」とはいうものの、具体的にどんな気持ちなのか、自分はどうしたいのかを聞くと、「自分でもよくわからない」という人が非常に多くいます。
変化の激しい社会を生きる私たちは、無意識に心に鎧をまとい、自分の弱さを周りに見せないようにしてしまいがちです。「自分の悪い部分、恥ずかしい部分を見られたくない」という思いが強くなり過ぎると、自分の感情を抑え込んでしまい、その反動として心にもないことを言ってしまう。SNSなどで発言して炎上してしまうケースなどはまさにこのパターンです。また、「自分の本当の感情は何か」を見失ってしまう人の傾向としては「我慢強くまじめな人」や「自分よりも他人を優先してしまう人」がこのパターンに陥りやすい印象があります。

Point公認心理師・大野萌子さんからの
メッセージ

私がカウンセリングの勉強を始めた頃は、相談者の気持ちと自分の感情が混ざってしまい、カウンセリング中に自分の感情を見失うことがありました。相談者が悲しい話をしていると自分も悲しくなる、怖い話をしていると自分も恐ろしくなるといったように、感情が引っ張られてしまうのです。そこで私が訓練したのが「自分の感情を確認する」ことでした。
カウンセリング中に「今は嫌な気持ちになっている」「話を聞いて恐怖を感じている」など、自分の感情を客観的に認めることで、相手の感情と分離ができるようになったのです。「自分の感情を認める」ことはカウンセリングにおいても基本中の基本の考え方です。
自分の気持ちがよくわからないという人は、ネガティブ感情の克服や心のリカバリーに少し時間がかかるかもしれません。そんな人は、なんとなく嫌な気持ちになったときに、立ち止まって「なぜこんな気持ちになるのだろう」と心に問いかけてみてください。そこで、どんな感情が浮かんだとしても捨て去ろうとせず、ありのままを受け止める。その繰り返しがネガティブ感情と上手に付き合うためのレッスンです。
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■記事公開日:2025/01/28
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼イラストレーション=吉田たつちか

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