若手のための“自己キャリア”

#17 決断力

リーダーを目指す人の必須スキル

 将棋界最年少の19歳1カ月で三冠に輝いた藤井聡太さん。昨年おこなわれた叡王(えいおう)就位式の会見で、「5番勝負は決断よく指すことを心掛けた。その方針通りに指すことができ、良い結果につながった」と喜びの気持ちを言葉にしました。藤井さんは常々、「スリリングな展開で求められるのは決断力。全ての手を読むことはできないので、選択することも大事になる。自分を信じてやるしかない」と話しています。将棋で言う決断力は,無数にある選択肢(駒の指し手)から1つの正解を選ぶ能力のこと。頼る味方がいない1対1の勝負において、決断力は勝利を導く武器になります。藤井さんのみならず、渡辺明名人、豊島将之九段といった将棋界の若きリーダーたちは皆、優れた決断力を発揮して勝利の山を築いています。

 ビジネスにおいても決断力をリーダーの素養に挙げる人が少なくありません。決断力がある人は、悩んだり迷ったりすることがあっても周りの意見に流されるようなことがなく、発言や行動にブレがありません。また自分の考えに信念を持っているので説得力があり、自らが下した決断に責任を負う覚悟も持っています。同僚や部下からの信頼も得やすいため組織の中でリーダーシップを発揮しやすく、必要以上に失敗を恐れずに突き進むことも決断力のある人の特長です。そもそも、決断力がある人は「失敗ありき」で物事を考えません。
 逆に失敗を怖がる人は、完璧な結果を求めるあまり慎重になり過ぎて判断が遅くなる傾向があります。迷ったり恐れたりしてなかなか決断できず、その過程で自分の考えにブレが生じていきます。さらに、自信がなさそうに見えることも決断力がない人の特徴で、作業能力の高さとは裏腹に信頼感を得られません。

 物事を決断する時はその場の思いつきで決断するのは禁物。失敗のもとです。まずは冷静に判断できるだけの情報を収集すること、そして、決断までのプロセスを正しく積み重ねることが、質の高い判断ができる要点になります。ここでは、新聞記者が記事にするか否かを決断する際におこなう段取りを紹介します。これは記者の仕事のみならず、あらゆるビジネスシーンに応用できる決断力向上のプロセスでもあります。

1.状況を把握する
一次情報を鵜呑みにするのは危険です。客観的な視点で現状を見て正しく理解することが基本です。
2.原因を究明する
現状に至った原因を明らかにします。原因究明を習慣化すると真相を捉える目が養われます。
3.今後を予測する
このまま放置していたら何が起こるかを予測します。あらゆる角度から状況の変化を考えます。
4.対策を練る
対策(記事の方向性)を探ります。この段階では取捨選択をせずに考えられる対策を全て列挙します。
5.決断する
どの対策を選ぶかを決断します。これらの段取りを繰り返しおこなうことで決断力を鍛えることができます。

POINT

 物事の決断は、その根拠となる情報の正確さ次第で結果の良し悪しが決まります。決断を迫られるたびに新たな情報を取り込み取捨選択することが必要ですが、それがスムーズに出来るようになるには経験が必要です。もとより、自分が下した決断に自信が持てない人は、「決断の場数」が不足していることが原因であると思われます。特に仕事上の決断は周囲の関係者にも影響が及ぶため、決断慣れしていない人は思い切った決断が出来ない人が多いように思います。そうした人は、身近な出来事から経験を積み重ねていくと良いでしょう。例えば、昼のランチメニューを前にしてなかなかオーダーが決まらず、結局は「右へ倣え」で注文してしまう人は、自分の意思でオーダーを決めることなども訓練になるはずです。そういった小さな決断を数多く重ね成功体験が増えていけば、いろんな場面で決断できるようになっていくはずです。

ビジネスライター 吉村高廣の視点

 先に紹介した「新聞記者の決断プロセス」を数年前に初めて知った時は目からウロコで、誤った情報を発信できないジャーナリズムの厳しさを垣間見た思いでした。決断するのが苦手な人は、ぜひこのプロセスに則ってスキルアップに努めていただきたいと思います。
 僭越ながら私は、このプロセスに1つ縛りを設けたいと思います。それは、一連のプロセスを時間を区切っておこなうこと。つまりプロセス完了までの"締め切り"を設けることです。特に状況把握や原因究明などは、決断の土台を固めるとても重要な段取りです。ただ私の経験上、ここに時間をかけ過ぎると思考の迷路に迷い込み、いつまでも対策が練れない、決断できない、という事態に陥ってしまいます。しかし時間的な縛りがあれば、自ずと情報収集や思考スピードが速くなり、決断までの時間が短縮されます。

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■記事公開日:2022/05/30
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock

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