若手のための“自己キャリア”

#9 アンストラクチャー

状況に応じてフレキシブルに判断する力を

ラグビーワールドカップ日本大会が終わって、巷では「ラグビー・ロス」などと言われ始めています。そうした一方で、組織マネジメントをおこなうビジネスパーソンの間では「アンストラクチャー」といった言葉がささやかれ、自社戦略を見直そうという企業が増えているそうです。アンストラクチャーとは、日本代表チームを率いたジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)の戦術の土台となる思想で、4年前の指揮官だったエディー・ジョーンズ氏(今大会ではイングランドのHC)と最も大きく異なる点です。
規律を重んじるジョーンズ氏は、攻撃も守備も、きちんと陣形を整えて決め事通りに手堅くプレーする"ストラクチャー・ラグビー"を追求して南アフリカから大金星を挙げました。一方、ジョセフHCが選手たちに叩き込んだ"アンストラクチャー・ラグビー"とは、型や決め事にとらわれず、状況に応じて個々の選手がフレキシブルに判断し、目の前の仕事を完遂するというもの。その成果は皆さんご存知の通りです。

企業の組織論は、その時々に成果を挙げたスポーツチームのマネジメントをベンチマークするケースが少なくありません。とくに1つのトライ(成果)を挙げるために、自己犠牲を厭わずボールをつなぐラグビーの戦術は「日本人好みの組織論」とも言われ、それが最も表層化したのが4年前の快挙、南アフリカ戦での勝利でした。
ところが今大会では、新しい指揮官のもと、真逆の戦術をもって日本チームはさらに大きな成果を挙げました。型通りの陣形は組まず、選手が主体的に動いて有利な形成を構築してゆくアンストラクチャーな戦い方。そこには、行動の基準を他者のサポートを主体に考える"利他主義"の発想ではなく、チームの一員としての自覚を持ちつつも個人の主体性を重んじる"自己主義"が強く働いていたように思います。

今大会は、日本人の新たな可能性を見せてくれた大会でもあったと言われています。それは、ラグビーに限らずあらゆるシーンで、個人の判断よりも組織の総意が重視されてきたこれまでの日本において、主体性に基づいたアンストラクチャーな戦い方で"堂々と世界と渡り合える"ことを選手たちが証明したからに他なりません。
組織力を重んじるのか、個人の力量重視なのか。安易に答えを出すことはできませんが、キープレスの「リーダーズ・アイ」でお話しを伺った、山本浩二さんや村上恭和さんといった一流のリーダーたちも、「個人の力の底上げ」の重要性を熱く語っておられました。スポーツの世界でもビジネスでも、今後は強い自立心こそがキャリアアップの決め手になり、協調性よりも非妥協性が評価される時代になるかも知れません。

POINT

主体性をもって行動できる自立した人材を育てる(或いは自分自身を変える)ためには、長年のハードワークが必要になります。4年前、ジョーンズ氏からバトンを引き継いだジョセフHCは人心掌握に大いに苦悩し、選手たちは「何を求められているか分からない」「そりが合わない」と悩んでいたそうです。大会後のインタビューでジョセフHCは「チーム作りは一夜にしてできるものではない」と話しました。4年間、家族よりも多くの時間を共にして、幾多のトライ&エラーを繰り返しながら、ようやく辿り着いたジョセフ流アンストラクチャー・ラグビー。ビジネスに応用するにしても、相当な覚悟が必要のようです。

ビジネスライター 吉村高廣の視点

今大会で最も印象的だったのが、スコットランド戦の稲垣啓太選手のトライです。堀江翔太、ジェームス・ムーア、ウィリアム・トゥポウ、そして稲垣啓太へと、タックルされて倒れる間際でパスを放るオフロードパスでボールをつなぎ、歓喜のトライが生まれました。オフロードパスは"諸刃の剣"で、下手をすればボールを奪われ反撃につながるため、ボールを持って走る選手を必ず誰かがサポートしなければなりません。つまり、これまで走力を求められなかったフォワードの選手もスキルアップが要求されます。ジョセフHCのアンストラクチャー・ラグビーの神髄はここにあります。単に個人プレーを善しとするのではなく、本来の役割を超えてチーム力を最大化させるために個の力を鍛え上げる。それを象徴したプレーでした。

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■記事公開日:2019/11/11
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=PIXTA

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