若手のための“自己キャリア”

#21 自己ツッコミ力

先入観を持たず、ニュートラルに耳を傾け目を向ける

今年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)決勝直前、ロッカールームで円陣を組んだ侍ジャパンの中心で、大谷翔平選手はチームメイトにこう檄を飛ばしました。......「(相手は)野球をやっていれば誰でも聞いたことがある選手たちです。でも、憧れていては超えられません。僕らはトップになるためにここに来たので、今日だけは彼らへの憧れを捨てて勝つことだけを考えていきましょう!」。結果は皆さんもご存知の通り、日本がアメリカを破り世界一の座を掴み取りました。ただ個人的にはその栄冠より、先の大谷選手の言葉が強く印象に残りました。
大谷選手のマインドの土台にあるのは、母校、花巻東高校野球部の佐々木洋監督の「先入観は可能を不可能にする」という言葉だそうです。相手の実力は認めつつも、最初から「勝てっこない」とか「出来るはずがない」などと自分で限界を設けず、臆することなくチャレンジすることが大事。その結果がWBC優勝であり、「絶対に不可能」と言われていた"二刀流"でのメジャーリーグ大活躍に繋がっているのです。

とはいえ、無意識のうちに先入観を持ってしまうのが私たち凡人の常です。特に顕著なのが対人関係で、職場の対人関係に息苦しさを感じている人の多くは、第一印象だけで相手の人間性まで決めつけてしまいがちです。また、少し前までは男性が育休を取ることはナンセンスとされていました。そこには「子育ては女に任せて、男は外で稼いでくるもの」という先入観があったからです。
こうした心理状態を"確証バイアス"と言い、ビジネスにおいても問題視されています。仕事における確証バイアスの問題点は、自分の先入観や仮説を肯定するために、自分にとって都合のよい情報ばかりを集めて意見を正当化し、リスク管理を怠る点です。例えば、新しい提案に向けて情報収集をする際に、確証バイアスがかかっていると上手くいく情報ばかり集めてプロジェクトに不都合な情報は軽視しがちです。結果、自信満々に提案したところ、思わぬ指摘を受けてあたふたしてしまうのはよくあるケースです。

東大大学院特任准教授で科学技術社会評論家の内田麻里香さんは、「自分たちが客観的事実だと見なしているものは、何らかの"思い込み"に基づいて選び取ったものかも知れないという自覚を持つ必要があります。そしてそのためには『自己ツッコミ力』を高めることが必要です」とおっしゃっています。つまり「自分を疑え」ということです。
また、他人に対して先入観を持って接していると懐疑心が強まり、それが過剰になると"陰謀論"にも陥りかねないのだと。確かに、コロナワクチンの是非をめぐる論争などはその最たるもので、「ワクチン接種は人口を減らすための政府の目論見だ!」などというデマが流布してそれを信じた人もいたほどです。
私たちは、見聞きしたことを自分のフィルターを通して都合よく解釈します。また、自分の思想や願望を念頭に置いて無意識に情報を取捨選択しています。つまり、自分の聞きたいことを、聞きたいように聞いているにすぎないのです。ですから、正しく物事を判断するためには、自分の先入観にツッコミを入れてニュートラルに耳を傾け目を向けることが大事。情報過多の現代、自己ツッコミ力は不可欠なスキルと言えるでしょう。

POINT

経験は人を成長させます。その一方で経験があるが故に固定観念が邪魔して、行動や判断を遅くすることもあります。昨今のビジネスは目標を達成するために行動力やスピード感が欠かせません。その足を引っ張るのが固定観念のもととなる先入観です。とくにベテラン社員はこれまでたくさんの経験をしているため、新しいことに挑戦しようというときに慎重になり過ぎてスタートが出遅れがちです。
また、別の人から仕事を引き継いだ時に、前任者のやり方をずっと続けている人がいます。最初のうちはやり方を踏襲する必要があるでしょうが、慣れてきたら「このままでいいのかな?」と自己ツッコミを入れて自分なりのやり方を考えるべきです。ところが先入観にとらわれていると、改善すべき点があっても見逃して効率的の悪いやり方を続けることになり兼ねません。先入観はビジネスにおいて確実に障害となります。

ビジネスライター 吉村高廣の視点

仕事柄私は著名人の取材をすることがありますが、メディア等での発言を見聞きしていて「ブスっとしていて、この人やりにくそうだな」と憂鬱になることがあります。ところが実際に向き合ってみるとそんなことはない。むしろ想像していた以上に丁寧だったり論理的に話しをされる方だったり。そんな時は、いかに先入観がアテにならないかを実感します(中には先入観通りの方もいます)。
ただ1つだけ、先入観を持ったからこそのメリットもあります。どれだけ相手が口下手で態度が悪かろうが、話しが聞けなくては仕事になりません。そこで、悪い印象を持つ相手には、より深く相手のことを調べ、いろんな角度から質問が出来るよう準備をします。結果、その場が盛り上がり記事の内容も深いものになることもある。対人関係でネガティブな先入観を持った相手に対しては、より慎重に接するよう心がけています。

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■記事公開日:2023/11/27
▼構成=編集部 ▼文=吉村高廣 ▼画像素材=Adobe Stock

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